8.轟け雷光!明日のために!

 デザスキーターに組みつかれ、エネルギーを吸い取られるタイラード。そのタイラードに組みついたデザスキーターを、剣で斬り付けるティオーン・カカリッド。そこへ応援に駆けつけ、共にデザスキーターと戦うEFを見たとき、ゼオレーテの心は決まった。


「戦闘星団ゼールズ太陽系方面攻略支店の者たち全てに通達する!先のシュテン・ティオーンとゴオライガーの戦闘において、既に雌雄は決した!」


 ゼオレーテは一呼吸おいて、再び口を開いた。


「我々の敗北だ!今より我がゼールズ火星支店は、隣星である地球の最大の危機に対して、協力を惜しまぬものとする!全軍!敵、デザスキーターを打ち滅ぼせ!」


 ゼールズの戦闘員たちから上がったのは、不平や不満などではなく、勝どきの声であった。


「良い演説だ」ファーストがゼオレーテに言う「お前にしちゃあ、合格点だな」


 ダンライオンがデザスキーターを斬り付け、爆発を避けるため蹴り飛ばす。ゼオレーテは「ふふ」と笑うと、デザスキーターを斬り飛ばした。



 名も知らぬ戦士の乗ったブッソ・ティオーンに、数匹のデザスキーターが組みつく。管を突き立てられ、爆発するブッソ・ティオーンから飛び出した脱出ポッドを、2機のEFがデザスキーターから守り、保護する。



「各国及び国連のEFに告ぐ!ゼールズ火星支店と共にデザスキーターを殲滅せよ!一匹も逃すな!」

 ディアドルフ大統領は叫ぶ。



「この星のこの国に現れたことを、後悔させてやれ!」

 間宮総理は檄を飛ばす。



「カケル君」ギックーのブッソ・ティオーンが、ゴオライガーの肩に手を置く。「戦争は終わりだ。君たちの健闘を称え、おめでとうと言いたい。だが、その前に、奴らを倒さなければ。この星を、共に守らせてくれ」

「ギックーさん、ありがとう」


「姫様」リゴッシのブッソ・ティオーンが、ギックーの反対側から声を掛ける。「姫様の選んだ星、デザスキーターの良いようになんかさせません」

「お願いします、リゴッシ」


「伝」ゴオライガーの上空のティオーン・ヒッシオから、マジョーノイの声がする。「ようやくたどり着いた戦争の終結。どうかこの戦いを無事に乗り切って」

「君もだマジョーノイ。絶対に死ぬな」


          ○


「司会なんかしてる場合じゃないわよ!」


 自身の宇宙船のコックピットから、プリムルムは叫ぶ。


「私たちも戦うわよ!」


 こちらも自身の宇宙船のコックピットから、叫ぶルゥイ。


「合体しましょう!」プリムルムの声にルゥイは答える。「合点承知の助!」

「合体!プリムルムX!」

「合体!オメガルゥイ!」


 二人とも違う名前を呼んでいるが、本当の名称はボンゴイザーである。2機の宇宙船が合体し、白とピンクの36メートルもあるずんぐりむっくりした丸っこい巨大ロボが完成した。


「プリムルム・シャワー!」

「ルゥイミラクルくるくる光線!」


 名称は違うが、とにかくボンゴイザーから大量の光線が発せられる。光線は、片っ端からデザスキーターを焼き払い、爆発させた。


          ○


 地球、ゼールズ火星支店、宇宙連合機構の協力によって、駆逐されていくデザスキーター。皆が手を取り合って戦うその姿に、これならば、夢で見た光景には辿り着かないだろうと、カケルが少し安心したそのときだった。


「美しい!美しいことだな!」


 空に空いた穴から舞い降りるティオーン・カカリッドからの声が、戦場に響き渡る。


「だが不快!非常に不快だ!」


 ティオーン・カカリッドの背後に続く、全長100メートルはあろうかというデザスキーター。


「その不快も!これまでだ!」


 響き渡るトルニダンの声。

 穴から現れた巨大な影と、大量に増援されたデザスキーターに、戦場にいる誰もが、その表情を曇らせた。


「見よ!この恐怖!絶望!これが宇宙最悪の生物だ!」


「黙れ!」ゴオライガーから発せられたカケルの声に、誰もが振り返った。「まだだ!まだ負けたわけじゃない!ゴオライガーは、ここにいる!」


 その言葉に、EFに乗るものは、ティオーンに乗るものは、ダンライオンに、ボンゴイザーに乗るものは皆、操縦桿を握りしめ、武器を構えた。


「小癪な」トルニダンはゴオライガーを睨みつける。「では貴様を、立てなくなるまで破壊してくれようゴオライガー。だが、その前に——」


 トルニダンはアポイントメントを見ると、ニヤリと笑った。


「児戯にも等しい貴様らの象徴、それを破壊してくれよう!」


 アポイントメントへと向かうトルニダンのティオーン・カカリッドに、ゼオレーテは思う。私の敗北宣言の後、あのアポイントメントには最早何の意味もない。だが、あの男には、あの男には破壊されたくない。

 その思いは、ゴオライガーに届いた。


「雷光!轟雷覇斬!」


 雷の如き速さのゴオライガーが、戦場を駆け抜ける。ゴオライガーはトルニダンよりも早くアポイントメントに到着すると、一振りにアポイントメントを斬り裂いた。光の粒となって消えて行くアポイントメントを纏いながら、ゴオライガーは、カケルは鋭い眼差しをトルニダンのティオーンへと向けた。


「お前に、このアポイントメントを汚す資格はない!」

「おのれ貴様あーっ!」


 興奮し、甲高い声を上げるトルニダン。対して、ゼオレーテは安堵の息を漏らし、言った。


「感謝する、ゴオライガー。やはり最後は、お前に決めて貰わねばな」



「おのれ、おのれ、おのれーっ!」


 取り乱すトルニダン。


「良いところで邪魔をしおって!どこまでも、どこまでも私を不快にするつもりかゴオライガー!こうなれば、こうなれば遊びは終わりだ!貴様も、貴様の星も、完膚なきまで破壊してくれる!ふはは!ふはっははっはっふひゃあ?」


 笑い声が途中でおかしくなるトルニダン。彼の乗るティオーン・カカリッドの背中には、100メートルもの大きさの女王デザスキーターの口が突き刺さっていた。


「おいこら、貴様、何をする——」


 トルニダンの言葉など気にも止めず、ティオーン・カカリッドのエネルギーを吸い取る女王デザスキーター。ボコンベコンとティオーンの装甲が内側からへこみ、すっかり吸い尽くされると、コンパクトになったティオーンが地面に落ちた。


「生体反応有り」地面に落ちたティオーンを、ファーストはモニターで確認する。「ちっ、しぶとい野郎だ」


「さて——」ゼオレーテがカケルとファーストに言った。「こいつをどうするかだな」


 視線の先では女王デザスキーターが羽を震わせている。ゴオライガーを中心に、シュテン・ティオーンとダンライオンが左右に並ぶ。3機は女王デザスキーター見据えた。

 ブン!と音がして、ゴオライガーに女王デザスキーターの前足が振り下される。ゴオライガーはそれを轟雷剣で受け止めたが、あまりの威力に100メートル近くも後ろに後退させられた。その光景に、ゼオレーテとファーストは、明らかに自分たちの機体を凌ぐ戦闘力を女王デザスキーターに感じた。

 あまりの衝撃に、カケルは奥歯を噛み締めた。


 ——あなたに与えた力を一つにして。


 夢で聞こえた声がして、ドクンと、カケルの心臓が鼓動する。


 ——私を、助けて。


 もう一度、ドクンと心臓が鳴った。


「待たせたな大将!」


 慣れ親しんだ声に、カケルはその方向を見た。


「あたしが来たからもう大丈夫!」


 樫太郎と鈴の声は、高速にこちらに向かって飛行する黒と黄色の、やけに攻撃色な巨大ロボから聞こえた。


「ツインライン・シュート!」


 樫太郎と鈴の掛け声で、二人の乗る巨大ロボ、ツインラインからレーザーが発射される。発射されたレーザーは、次々にデザスキーターを焼き払った。


「樫太郎!お鈴!」


 カケルの歓喜の声に、樫太郎と鈴はにやりと笑う。


「絶望の闇を斬り裂く」樫太郎が言う。

「希望輝く光の剣」鈴が続く。

「参上!ツインライン!」二人が同時に言った。


「何やらすのよ!」と鈴の声がして、「痛え!」と言う樫太郎の声と打撃音からして、コックピットは一緒なんだなとカケルは推察した。


「援軍は頼もしいが」ゼオレーテはツインラインを見ながら言った。「だが、性能は我らと同格といったところか。なかなか手応えのある戦いになりそうだな」


 そう言って女王デザスキーターを見上げるシュテン・ティオーンを、ツインラインのコックピットで樫太郎が、「はっはぁーん」と笑った。


「このツインラインに隠された機能、それによって、我々の戦力は飛躍的に上昇するのだ!カケル!声高らかに『グレートゴオライガー』の名を叫べ!そして『G』のボタンを押せえええええ!」


「分かった!」


 カケルは『G』のボタンを押す。


「グレートゴオライガー!」


 ♪この星に降り立つ絶望を 

  宇宙を彷徨う悲しみを

  振り払え 勇気の心で

  この星を包む青い空を 

  この星を満たす海を

  守り抜け 仲間と共に

  雷光纏う正義の剣 ゴオライガー!

  闇を斬り裂く希望の剣 ツインライン!

  鋼と想いが響き合う エナジウムの因子

  合体!最強!無限の力! 

  グレートゴオライガー!


 カケルが『G』のボタンを押した瞬間、凄まじいエネルギーがゴオライガーとツインラインを包み込む。2機は空中に押し上げられると、ツインラインは複数のパーツに分離し、ゴオライガーの周りへと整列した。ゴオライガーの胸に、腕に、足に、背中に、強化パーツとして接続されるツインライン。ツインラインのヘッドパーツがゴオライガーの角と頬当てを強化し、最後に胸のエンブレムが、GのマークからGとWを重ねたマークに切り替わった。


「完成!グレートゴオライガー!」


 五人分のエナジウム因子に反応した、グレートゴオライガー全身のエナジウム合金が、超大なエネルギーとなって駆け巡る。


「ゴオライ・ビィーム!」


 カケルの声とともにグレートゴオライガーの胸から発せられたビームが、味方を避けながらジグザグに空を照らし、数十匹のデザスキーターを一瞬で焼き尽くす。

 同族の死に怒った女王デザスキーターが、前足をグレートゴオライガーに振り下す。しかしそれは、グレートゴオライガーの右手にあっさりと止められた。


「こいつをあの穴の中で倒します。手伝ってください」


 ゼオレーテとファーストは「分かった」「任せろ」と答えると、女王デザスキーターの脚に取り付く。巨大な光を発して、女王デザスキーターを穴へと押し戻していく3機の巨大ロボ。なすすべなく女王デザスキーターは、亜空間へと繋がる穴の中へ放り込まれた。


「とどめを刺します!離れて!」


 カケルの声に、シュテン・ティオーンとダンライオンは離脱する。


「行くぞみんな!」カケルの声に、アリアーシラが、伝が、樫太郎が、鈴が答える。

「はい!」

「おう!」

「行くぜ!」

「やってやるわよ!」


『『轟け雷光!グレート轟雷覇斬!!』』


 五人の声が一つになり、グレートゴオライガーの全身から虹色の光が溢れる。光は数百メートルの光の剣となって轟雷剣と共に振り下ろされた。それは亜空間の穴ごと、女王デザスキーターの体を真っ二つに斬り裂く。大爆発を起こす女王デザスキーターを、収縮し消えていく亜空間の穴が包み込んだ。


 ——ありがとう、カケル。


 そう、カケルの耳には、女性の声が聞こえた。

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