第1部「エピローグ」
エピローグ
こんにちは、アリアーシラです。
二ヶ月間に渡る地球と戦闘星団ゼールズ太陽系方面攻略支店のアポイントメント戦争は、地球側の勝利で幕を閉じました。最後は宇宙怪獣の乱入なんてとんでもないことがありましたが、無事に終結。宇宙怪獣を倒したゴオライガーの名は、宇宙中に轟きました。混乱の首謀者トルニダンは、しぶとく生きていて、今は宇宙連合機構の特別な監獄に収監されています。もう、出て来ないで欲しいです。
ギックーとリゴッシ、そして残念ながら不肖のお兄様は、元気にやっています。ギックーとリゴッシの二人は中華料理が気に入ったらしく、度々こちらの方へ足を運んでいるようです。良い飲み友達が出来たと、来花さんも喜んでいました。
火星のゼールズ支店は、ゼールズ火星支店と名を改めたのはご存知の通りです。先日、地球との和平条約が結ばれ、地球と火星は、隣同士の友好惑星になりました。地球側も火星側も特に遺恨を残すことなく、仲良しになれたのは本当に良かったです。今後は住民の行き来も頻繁に行われるようです。それに先駆けて、地球にも初の宇宙港が建設されることになりました。でも、出来上がったら出入りが面倒になると、ファーストさんとルゥイさん、プリムルムさんがぼやいていました。
私としては、カケル君を狙っているプリムルムさんが、頻繁に地球に来れない方が安心ですけれど。
神宮路司令と花音さんも元気です。二人とも、元気なんですけど、今まで以上に忙しくなったらしく、この間は火星にまで足を運んでいました。
お鈴ちゃんにエナジウム適合があったのには驚きました。そのことと新しいロボットのことを樫太郎君は秘密にしたかったらしくて、「切り札は最後まで秘密だろう!」と言う樫太郎君と、お鈴ちゃんは大分もめたみたいです。でもこれで、二人が疎遠だった謎が解けたので、私は安心しました。
樫太郎君とお鈴ちゃんは、ちっとも進展がありません。私としては非常に残念です。このことに関してはカケル君もあまり同調してくれなくて、だんだんと私だけの思い込みなんだろうかと不安になります。
あ、そうそう!伝さんとマジョーノイはめでたく結婚しました!今、結婚式が終わったところです。二人とも幸せそうで、みんなに祝福されて、見ている私まで、幸せな気持ちになりました。この気持ちがカケル君にも伝わって、少しは積極的になってくれると嬉しいです。
「何、してるの?」
カケルは、通信端末を操作するアリアーシラに声を掛ける。
「お母様に、近況報告をしていました」
「ごめん、邪魔しちゃったな」
「いいえ、今ちょうど終わったところです」
見慣れない青いドレス姿のアリアーシラを見ながら、今日は何度も見ているはずなのに、カケルは照れて視線を逸らした。アリアーシラも改めてみるカケルのスーツ姿に、今日何度目かの照れを感じて視線を逸らした。
「良い式だった」
カケルはアリアーシラの横の芝生に腰を下ろす。爽やかな風が抜けて、二人を優しく撫でた。
「そうですね。私たちは、いつにしましょうか?」
「ええっ!?いや、それはだね、いろいろ、ほら、年齢の問題もあるし——」
慌てるカケルを見ながら、アリアーシラは「ふふっ」と笑った。
「そうですね、順序立てて行きましょう?」
アリアーシラはそう言ってカケルの手を握ると、じっと彼を見つめた。その真剣な眼差しに、綺麗な青い瞳に、カケルは吸い込まれそうになる。徐々に近付く二人の顔。
そのときガサッと生垣から明らかに人と思われる物音がする。カケルは、音の方角を凝視した。
「何で音出すのよっ!」
緑のドレスからすらりとした足を覗かせて、鈴が樫太郎の顎を蹴り飛ばす。「だふうっ!」と声を上げて、弓なりにのけ反ってから、仰向けに倒れる樫太郎。
「このぼんくら!もうちょっとだったのにぃ!」
怒鳴る鈴は、そこで自分をじっとり睨むカケルの視線に気が付く。
「お鈴」
「これはその、あれよ。樫太郎の散歩よ」
目を合わせずに訳の分からない言い訳をする鈴。そのときアリアーシラが体を伸ばして、カケルの頬に口づけした。
「おおっ!」生垣から飛び出す伝。
「素敵です姫様!」一緒に出てくるマジョーノイ。
その他、わらわらと。神宮路、来花、花音、ギックーとリゴッシ、ゼオレーテ、ファースト、ルゥイ、プリムルム。
興奮と、怒りと、喜びと、様々な感情はカケルの中で渦巻き、鼻という一点に集中した。「ぶう」とカケルの鼻から血が出た。
「ようやく、進展しましたな」ギックーが言う。
「これは彼らにとって大いなる一歩だ」神宮路が答える。
「おめでとう!姫様」リゴッシは喜ぶ。
「きいぃぃぃ!あの小娘!」プリムルムは怒る。
「私も私も!」蛸のように口を尖らせるルゥイ。
「やれやれだ」ため息を吐くファースト。
「妹よ、良くやった」ゼオレーテは涙ぐむ。
「彼氏ほしーい」来花と花音は声を揃えた。
「大丈夫ですか?」とくっついてくるアリアーシラに、余計に鼻血が止まらなくなるなとカケルが思ったときだった。
ビービービー!
カケルのブレスレットが、アリアーシラのブレスレットが、けたたましく警報を鳴らす。
「——司令」小型のノートパソコンで何かを確認した花音が、神宮路に伝える。「新たなアポイントメントが出現しました」
「そうか」神宮路は一度空を見上げてから、向き直って言った。「諸君!聞いての通りだ。ラインマシン、出動準備!」
「ふう」と、伝はため息を吐く。「何も今日じゃなくてもな」
「でも伝」マジョーノイは言った。「今日からは、戦いの後、待ってる女がいるのよ?」
「そいつは最高だね」と、伝は返す。
「何なら伝さん」仰向けで首だけ持ち上げて、樫太郎が言う。「今回は休んでも平気ですよ?」
ニヤッと笑う樫太郎につられて、鈴も不敵に微笑む。
「行こう、アリアーシラ!」カケルは立ち上がると、鼻血をぬぐった。「俺たちの、地球を守りに!」
鼻血のついてない方の手を、アリアーシラに差し出すカケル。アリアーシラはその手に自分の手を重ねると、「はい」と答えて微笑んだ。
第1部・完
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