5.連絡先は交換してね。

 ずっと会話が盛り上がっている、伝とマジョーノイ。時折、来花や鈴に話を振ってくれるものの、いつの間にか二人の会話、二人の世界になっている。目の前で見る上手く行ってる恋愛は、意外と面白い見物ではない。だんだんと、来花と鈴の気持ちは白けてくる。


「私たち、お邪魔でしかありませんね」

 ぽそぽそと、鈴が来花に小声で言った。


「そおねえ」


 お暇しましょうか、と来花が言いかけたとき、彼女の左腕のブレスレットが、ヴーヴーと振動した。

 来花は立ち上がって、一度店の外に出る。見ると、伝も同じ動きをしていた。通信機の蓋を開き中の画面を見ると、そこには花音の姿が映る。伝の方も、同じ画面を見ているようだった。


「伝様、来花、よろしいですか?」花音の声に、二人は頷く。「カケル様とアリアーシラ様が、敵に襲われました」


 一瞬、伝と来花は事態が理解できなかった。


「何が起きたの?」

「二人に怪我はありません。詳しくは後程。先ずは至急、ラインフォートレスへ帰還してください」


 伝と来花は顔を見合わせると頷く。

 伝は、店の中で鈴と話すマジョーノイを見た。自分が席を外している間でも、鈴と会話出来ている彼女の気遣いとその姿を、愛おしいと思った。だが、今はそれどころではない。


「すみません。仕事でちょっと、急ぎのトラブルが起きてしまった」


 席に戻ると伝は、マジョーノイに伝える。


「まあ、お仕事で——。大変ですね、わたくしのことは構わずに、どうぞ」

「すみません。では——」


 そう言ってテーブルの伝票を手にし、立ち去ろうとする伝の上着を、来花が掴む。


「あんたたち、ちゃんと連絡先交換したんでしょうね?」


 言いながら来花は、伝の手から伝票をひったくる。彼女に言われて、伝とマジョーノイは驚いた顔をする。


「いかん。まだだった。つい話に夢中になって。すみません、よろしいですか?」

「ふふ」とマジョーノイは微笑む。「すみませんばっかりですね。もちろん、喜んで」


 マジョーノイはスマホそっくりの通信端末を手にする。もちろん地球の通信手段を用いたものではなかったが、ゼールズの技術を持ってすれば、それとスマホを連動させるなど、簡単なことであった。


「番号、申し上げます」


 マジョーノイは通信端末上に表示された、偽装番号を読み上げる。読み上げる間にマジョーノイの端末は伝のスマホをハッキングし、偽装番号を使って通信できるよう、システムを構築する。

 伝がマジョーノイの読み上げた番号に電話を掛けると、彼女の通信端末の呼び出し音が鳴った。

 それを確認すると、伝は来花と鈴の後を追う。


「必ず、連絡します!」

「はい、お気を付けて」


 伝の背中に、優しい表情で手を振るマジョーノイだった。


          ○


「大丈夫か二人とも!」


 ラインフォートレスの艦橋に入ってきた伝は、カケルとアリアーシラの無事な姿を見て安心する。


「良かったぁ、アリアーシラ」と、来花と鈴はアリアーシラにくっついて喜ぶ。


「何があったんだ?」


 聞く伝に、カケルは海岸の岩場で起きた、アシーガとの出来事の一部始終を語って聞かせる。


「そんなことが——」


「これは由々しき問題だ」神宮路が言った。「先日の、ゼールズ支店での騒ぎについては、双方死傷者が出なかったこともあり、また、アリアーシラ君がゼールズの姫であることから、ゼールズ側としても、身内の問題であるとして、アポイントメント戦争とは係りのないこととなった。それに係った、地球人と宇宙連合の人間のことについても、不当とのことだ。だが、今回は違う。相手は、殺傷能力のある武器で攻撃してきたのだ。パイロットを狙って。これは、アポイントメント戦争の規定に反する行為だ」


 神宮路は「うーむ」と唸って、上を見ながらうろうろと歩く。そして立ち止まると、

「これはゼールズにも真意を確かめなければな」と呟いた。


「とにかく、怪我がなくって良かった」


 カケルの肩に手を置く伝に、カケルは「ラインテクターが無かったら、死ぬとこだった」と笑って見せる。


「良かったね、怪我なくって」とアリアーシラの手を握る鈴に、「カケル君が守ってくれました」とアリアーシラは嬉しそうに言った。


 場が和んだ、そのときだった。


 ビービービー!


 艦橋に鳴り響くサイレンに、緊張が走る。


「残念ですが」花音が皆に伝える。「アポイントメントの着弾が確認されました」

「場所は!?」


 来花の問いに、花音は答える。


「この近くの飛行場です」


「諸君!」


 神宮路が声を上げる。

「ラインマシン、発進準備!」

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