4.CD地点問題無く、食べ歩き。
松島。日本三景の一つに数えられる、風光明媚な湾岸の観光地である。大小様々な形の島は、遊覧船などで巡ることも出来る。
自由時間となったカケルたち四人は、先ず、桃山様式の本堂を持つ寺院、瑞巌寺を拝観した。それから、海岸をそぞろ歩き、お土産物屋を覗いた後、鈴の希望で浜焼きを食べることにした。
「やっぱり海に来たらこれよね」
牡蠣、つぶ貝、ホタテ、イカ、タコの足。
それらを網の上に置くと、海産物特有の香りが溢れ、鼻孔を刺激する。最早、網を通ってくる熱さえも美味いのではないかという錯覚を起こす。新鮮な海産物を、炭火で焼く。それは単純ながらも、海産物を最も美味しくいただく方法のひとつであろう。
「うわあ」レモンを一絞りした牡蠣を口に入れたアリアーシラから、笑顔がこぼれる。
「噛んだとたん濃厚な旨味が広がって——。まるで今見てきた海が、美味しさになって口の中に溢れるみたいです」
カケルはイカの身を噛み締める。
「肉厚で食べごたえがあるけど、柔らかい。醤油の香ばしさが堪らないな」
「つぶ貝。一見地味で大きさもある方ではないが、噛むほど口の中を満たしてくれるこの旨味。ああ、しゅわっとしたもので流し込みたい」
若干、危険な発言ともとれることを言う樫太郎。
「美味っしい」牡蠣を含んだ頬を、両手で抑えて鈴は言う。「やっぱり有名所で食べる牡蠣は最っ高ね!旨味とか弾力とか、ぜんぜん違うわあ」
幸せな顔をする4人。ポツリと、樫太郎が言った。
「今日泊まるとこって、『ここ』だよな。晩飯も、こういうの出るんじゃねえの?」
「出ても全然食べられるでしょ」鈴が言う。
四人は同時に「食べられるぅー」と、ほっこりした笑顔を見せる。
「まあそれに」カケルが言った。「修学旅行の晩御飯は、何故だかその土地のものでもない和食に、右上にすき焼きでしょ」
当たりであった。
「美味しいんだけどね」体操着姿のカケルが、いただきます、をする。
「いろいろ考慮すると、結果だな」体操着姿の樫太郎が答える。
「いけない!お腹いっぱいすぎる!」浜焼きを食べ過ぎた、体操着姿の鈴。
「食べられない分、私が食べますよ」意外と大ぐらいも出来る、体操着姿のアリアーシラ。
この後、「アリアーシラちゃん撮影会」を企てた樫太郎が担任教師に捕まり、廊下に正座させられた以外は、特に事件もなく穏やかに過ぎた。残念ながら、女子風呂を覗こうなどと画策する動きは、起きなかったのである。
○
「C地点、問題なし」
浴衣姿にビール片手で、月明かりに照らされた松島の絶景を堪能する来花。
「これがアインシュタインも感動した風景ね」
○
二日目。仙台駅前にて再び自由時間。ここで、意見は真っ二つに分かれる。仙台城址を見たいと主張する派と、食べ歩きしたい派が真っ向から対立する図式となった。風雲急を告げる戦いが予想されたが、結局、じゃんけんで穏便に解決された。実際、仙台城址派は樫太郎一人であったため、多勢に無勢な戦いであった。
「せめて、プラモの作品が展示してあるとこ見たいです」敗者の叫びである。
「あ、それ俺も見たい!」乗っかる勝者側、カケル。
「良いわよ、それくらいなら、ねえ、アリアーシラ」勝者の温情、鈴。
「はい。私、地球のもの何でも見てみたいです」
にこにこ笑うアリアーシラに、引くかもよ?と鈴は心の中で突っ込む。
「それじゃ先ず、食べ歩きにしゅっぱーつ!」
カケルの号令で向かった先で、手に入れたのは冷たく冷えた緑色の液体。
「これ、テレビで見てから一度飲んでみたかったのおー」鈴は嬉しそうに枝豆のシェイクをストローで吸う。
「美味しーい!」
緑色のもったりした液体に、抵抗を感じるアリアーシラ。美味しいよ、と笑って見せるカケルを見てから、恐る恐るストローに口を付ける。
えい!
思い切って吸った口の中に、つぶ感の残る冷たい液体が流れ込む。それは甘くて、さっぱりしていて、豆の風味が強く主張することもなく、それでいてしっかり存在していて、絶妙な喉越しで喉の奥へと運ばれていく。
「——美味しい」
次に向かった先で食べるのは、丸いカマボコを二つ串に刺して、薄い生地で包み揚げたものである。
もう、見た目からして分かる美味そう感に、カケルたちはわくわくしながらケチャップを付ける。
「外カッリカリ」一口食べてカケルが言う。
「中はカマボコ特有の、ふわふわ感と歯ごたえが。それが外側の生地とケチャップの旨味と合わさって——。美味ーいっ」
樫太郎が眼鏡を直しながら言う。
「アメリカンドッグとも似ているようで、全然違う。こりゃ、美味いな」
適度にお腹を満たした4人は、樫太郎がスマホで探したホビーショップへと向かう。様々な模型やオモチャを取り扱うその店では、地域のモデラーが作った作品が、ショーウィンドウに飾られていた。そこには確かに、鈴が思っていた通り、ちょっと引く人もいるかもしれないような作品も展示してあったが、それらや他のロボットや戦車などにカケルと樫太郎が注目するよりも、圧倒的に四人の目を惹く作品が展示してあった。
「ゴオライガーだ」
既存のプラキットを軸に、プラ板やらパテやらで切った貼ったしたそのゴオライガーは、細部に違いはあれど、ちゃんとゴオライガーしていた。
「見てくれてる人はいるんだ」
カケルは目頭が熱くなる。
「はい、なんだか嬉しいです」
アリアーシラの目に、うっすら涙が浮かぶ。
「良かったわねえ、二人とも」
じーんと感動しながらカケルとアリアーシラを見る鈴。樫太郎だけが、腕を組んで顎をさすりながら、別の視点で見ていた。
「芯に使っているのは——あのキットか。非変形なら選択肢としてはベストだな。変形合体を考えたら、別の選択肢になるのかあ」
じっとりとあきれた目で鈴は樫太郎を見てから、鋭い肘鉄を彼の脇腹に見舞った。
○
ゼオレーテの前に並ぶ、ギックーとリゴッシ、そしてマジョーノイ。
「今回の作戦は」ギックーが口を開く。「私自ら出向きたいと思います」
「ほう」ゼオレーテが聞き返す。「勝算はあるのか?」
「は。いささか古典的な方法ですが試してみたいと思います」
「地球の側の兵力は」リゴッシが続ける。「まともに我が兵力と戦えるのは、あのゴオライガーだけの可能性があります。そこを狙います」
「良かろう、やってみるが良い」
「わたくしも参ります」マジョーノイが言った。「前回の失態、挽回させていただきたいのです」
「分かった。許可しよう」
「は、ありがとうございます」
表情には出さなかったが、マジョーノイが心の中で嬉しそうに飛び跳ねたのを、なんとなくゼオレーテたち三人は悟った。
○
「——はい。D地点でも問題は発生してません」
ペデストリアンデッキを歩くカケルたち四人を、人ごみに紛れながら追う来花。何気なく一度、左側の風景を見る。それから再び対象である四人に視線を戻したが、左側を見たときに見えた大柄な人影に、慌てて視線を向けた。
「伝さんね——」
同じペデストリアンデッキを歩く伝の姿に、カケルたち四人は、方向が違うせいもあって全然気が付かない。
司令から、ラインマシン司令部の近くか、カケル君たちと同じ方面にいてくれって言われてたみたいだったけど、まさかここにいるとはね。隣にいるのは、ああ、マジョーノイさんだ。
にやにやと、来花がにやける。
大人のデートはやらしいわねえ。カケル君たちと同じ方向にいかないかしら。
残念ながら、全く別の方向へと進んでいくカケルと伝。
「どうした、R1。ターゲットとの距離が離れ過ぎているぞ?」
ちっ。
イヤホンからの声に、しぶしぶカケルの後を追う来花だった。
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