3.守りに徹してみました。

「何だ、これは——」


 ゴオラインのコックピットからアポイントメントを見るカケル。アポイントメントの周りには、今までの戦闘では見たこともない盾を構えたタイラードが複数機いる。さらに、上位版と思われる盾を装備した、ティオーン・カカリッドとブッソ・ティオーン。ブッソ・ティオーンのほうは、いつものスーツ姿を踏襲しつつも、体格の良い筋肉質の人がスーツを着ると出るピチピチ感が再現されたデザインだ。


「明らかに、一時間逃げ切りましょうってのが出たな」


 カケルの呟きに、アリアーシラが答える。


「私も見たことが無い盾を装備しています。それにあのブッソ・ティオーン、ギックーとリゴッシじゃありませんね。あまり見覚えのない機体ですが、確か攻略企画部の人の機体だった気がします」

「攻略企画部?」

「はい。ギックーとリゴッシのいる実行的な攻略推進部に対して、あまり目立たない部署です。一応、アポイントメントの射出権限と戦闘権限は持っていますが、攻略推進部を押し退けての出撃はほとんどありません」


「そんな部署が何故——」言いながらカケルは、他の場所のアポイントメントの映像を見る。そこに映るのは、新型の盾を装備した複数のタイラードと、同じく盾を持った2機以上のティオーン・カカリッドだった。映像を切り替えながらカケルは、ラムネを口に含み、噛み、「——司令?」と神宮路に声を掛けた。


「私も確認している」


 答えた神宮路の表情は、曇っていた。


「ここまで露骨に防御に徹してくるとはな。しかも、各地点に2機以上のティオーン・カカリッドの配備とは。これは、楽観出来ない状況だ。伝君、戦闘が始まったら即座にアポイントメントへと砲撃2射。相手の盾の強度を測る」


 だが、伝からは返事がない。


「——伝君?」


 もう一度名前を呼ばれて伝は、ハッと我に返って「すみません!」と神宮路に答えた。


「どうしたのかね?君にしては珍しい」

「実は——」伝の表情が暗い。「昨日からマジョーノイと連絡が取れなくて。こんなときに女の、しかも敵の幹部のことなど気にしている場合じゃないんですが、どうしても気になってしまって——。すみません、気持ち入れ替えます!」


 パンパン!と、顔を叩いて気合を入れる伝。


「気持ちは分かるが」神宮路は伝に言う。「ここは戦闘に集中してくれたまえ。実は私のほうも、昨日からゼオレーテと通信が出来ない。何かあったのかもしれない。分かり次第、君に伝えると約束しよう」


「はい、ありがとうございます」と答える伝を心配そうに見てから、カケルは再度各地点のアポイントメント映像を確認すると、アリアーシラに言った。


「おかしい。やっぱりギックーさんとリゴッシさんの姿が見えない」

「この正念場でのギックーとリゴッシの不在、マジョーノイとの不通、お兄様のことはともかく何かあったようですね」


          ○


「——戦闘開始」


 アポイントメントからの戦闘開始の合図とともに、グランラインの主砲が光弾を放つ。二つの光弾は高速にアポイントメントへと迫ったが、2機のタイラードの展開した盾に直撃し、跡形もなく消え去った。


「おい、グランラインの砲撃が全く効かないぞ」


 あまりに強固なタイラードの盾に、驚く伝。そのとき「ふはははは!」と笑い声がブッソ・ティオーンから響いた。


「見たかこの強度!タイラードの能力を丸まる使って防御力に特化させた新型のシールド発生装置!貴様らの兵器など無力!名乗りも出来ぬ無粋な地球人め、聞くが良い!我が名はダーボック!『ダーボック・ギ・プース』!覚えておくが良い!」


 ブッソ・ティオーンの中で、大威張りするダーボック。四角い顔の半分を覆う髭と、むっちりした筋肉質の体を覆うピチピチのスーツが何とも暑苦しい。

 カケルは何だかこの男に、ムカッと苛立ちを感じた。


「おい。大した自信だな。じゃあ、今度はそっちの番だ。大口叩くだけの攻撃、見せてみろ!」


 戦場に、静かな風が吹く。ブッソ・ティオーンは動かない。いや、動けない。


「まさか、本当に、ただ一時間アポイントメントを守り逃げするためだけの性能とか言うんじゃないだろうな?」


 当たりであった。


「ええい!」ダーボックが叫ぶ。「貴様の攻撃をして来るが良い!私は、誰の挑戦でも受ける!」


「良いだろう。合体だ!」


 いつもより荒々しいカケルに、アリアーシラはときめき、伝は彼にこういう一面もあるんだなと思う。

 カケルが、アリアーシラが、伝が、そしてラインフォートレスの艦橋で神宮路が、それぞれの前にある『G』のマークのボタンを押す。とたん、3機のラインマシンから膨大なエネルギーが溢れた。

 グランラインがゴオライガーの腰から下を、クウラインが胸から上に変形し、最後に腹部に変形したゴオラインを挟み込むように合体する。頭部が露出し、胸に『G』のマークが輝く。


「輝け雷光、轟け雷鳴、蒼き地球を守るため。雷神合体ゴオライガー、正義の光をその身に纏い、猛き雷ここに見参!」


「出たな!ゴオライガー!」


 ダーボックが言うか言わないかのうちに、光の如き速さでゴオライガーは彼の乗るブッソ・ティオーンに近付き、鋭いストレートパンチを見舞う。盾を構える間もなく顔面にパンチを貰ったブッソ・ティオーンは、吹き飛び、水切り石のように地面を跳ねて行く。


「バカなあ!?」


 ダーボックの悲鳴など他所に、アリアーシラはいつもより強めにカケルから「アリアーシラ!」と名前を呼ばれ、そのギャップに心ときめく。


「グラビティ・プレッシャー!」


 アリアーシラの声に、タイラードの頭上に六角形のバリアが出現する。バリアがゆっくりと回転すると、タイラードの胴体が捻れ、徐々にタイラードを押し潰して行く。


「あ、潰れますね」


 押し潰され、爆発する盾持ちタイラード。


「何だ、壊せるな」伝はタイラードを見ながら言った。「なら、次は僕の番だ!」


 ゴオライガーにデスペラード・ブラスターを構えさせた伝は、残りのタイラードとティオーン・カカリッド、遠くでやっと起き始めたブッソ・ティオーンを光速にロックオンする。


「ファイア!」


 連続で光弾を発射するデスペラード・ブラスター。ハチの巣になったタイラードが、爆発する。

 何とか光弾を耐えきったティオーン・カカリッドであったが、中のパイロットの動きが連動してしまっているのか、膝がガクガクと震えている。


「インパクトォ・ドラァイブ!」


 全く容赦のないカケルの動きに反応して、放たれる、ゴオライガー必殺の全身のエネルギーを突きに凝縮させた技が、ティオーン・カカリッドの持つ盾に突き刺さる。盾はバラバラに砕け散り、エネルギーの余波をもろに食らったティオーン・カカリッドは吹き飛ばされ、ブッソ・ティオーンにぶち当たる。


「ゴオライガーめ!まだ私が!私が残っているぞ!」


 のしかかるティオーン・カカリッドを押しのけて、ブッソ・ティオーンが盾を構え直そうとしたとき、ダーボックには轟雷剣を構えるゴオライガーが見えた。


「雷光!轟雷覇斬!」


 カケル、アリアーシラ、伝の声とともに、光の速さに達するゴオライガー。その轟雷剣はブッソ・ティオーンの盾を紙のように斬り裂き、アポイントメントを真っ二つに斬った。


「一刀両断!」


 カケルの決め台詞と同時に、砕け散り、霧散していくアポイントメント。


「これで終わりと思うなよー!」


 ぐったりしたティオーン・カカリッドを担いで、逃げていくブッソ・ティオーン。



「諸君!」


 そこへ、ラインフォートレスが降下してくる。神宮路の声だ。


「ゴオライガーは合体状態のままラインフォートレスに格納!次の戦場へと向かう!」

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