4.再び、火星へ。
ゴオライガーの連戦での活躍も空しく、地球に残留したアポイントメントは合計11個に達した。ゴオライガーが今回破壊したアポイントメントは3個、国連地球防衛軍の破壊したアポイントメントが1個、そして残念ながら破壊出来なかったアポイントメントは4個であった。
ラインマシン指令部に帰還した一同には、重い空気が流れていた。
「あと2個、だったのにな」
俯く伝に、神宮路が声をかける。
「仕方ない。もう時間切れだったのだから。君たちは本当に良く戦ってくれた」
「それにさあ」努めて明るい声を出して、来花が言った。「まだ負けた訳じゃないでしょう?次よ、次勝てば良いのよ」
「そうだな」神宮路も微笑む。「ゼールズの残るアポイントメントは20。最早分散している余裕はない。ならば最後は20ポイント使っての総力戦だろう。そうなれば破壊するアポイントメントは一つで良い。こちらにゴオライガーがある限り、分は有る」
「でもその前に」カケルが口を開いた。「ゼールズ支店に何が起こっているかを知りたい。伝さんの為にも、アリアーシラの為にも」
「クーデターだ」
答えは、意外な人物からもたらされた。皆が視線を送るその先には、ファーストが立っていた。その後ろでは、ルゥイが手を振っている。
「ゼールズ太陽系方面攻略支店でクーデターが起きた。首謀者はダーボック・ギ・プース。地球攻略企画部の奴らだ。奴らの主張は火星への移住への反対と、他星への侵略と開拓の継続。現在ゼオレーテとその部下を監禁しているらしい」
「マジョーノイは、マジョーノイは無事なのか?」
ファーストを掴んで伝は話を聞こうとするが、その鼻先に、麻痺性の光の刃を形成するスタンロッドの柄を突き付けられて、留まる。
「近えよ」
「どうなんだ、彼女は無事なのか?」
「奴らは主張さえ通れば良いんだ、殺しまではしないだろうよ」
「分かりません」厳しい表情で、アリアーシラが言った。「あなたの話が本当ならば、いろいろなことが納得いきます。以前、ギックーとリゴッシが生き埋めになりかけたとき、あれがもし、故意に二人を狙っての行為だとしたら。人がいるところを狙ってはいけないアポイントメントの、事故を装ってギックーとリゴッシを亡き者にしようとした、そういうことをやるような人なのだとしたら」
「なるほど。そういう奴って可能性がある訳か。姫さん、あんたゼールズの姫さんだろ?面識はねえのか?」
「残念ながら。あまり、目立った部署ではありませんから」
アリアーシラとファーストのやり取りに、青い顔をしてふらつく伝を、神宮路が支える。
「伝さん」アリアーシラは伝の方を見る。「ごめんなさい。不安にさせてしまって。ですが、そのくらい切迫した状況であると言えます」
アリアーシラの言葉に、皆、切迫した表情を浮かべたそのときだった。
「行こう!」
カケルが、皆に聞こえる声で言った。
「ゼールズ支店へ行こう!俺は、あの人たちを助けたい。それに、最後の戦いに勝つなら、俺はあのダーボックとかいう奴じゃなく、ゼオレーテって人から勝ちたい!」
皆が驚く中、「ははは!」とファーストが笑う。
「面白いやつだな、お前!実は俺は、今からそのゼールズ支店に乗り込むつもりだった。ゼオレーテの奴を助けにな。ここに来たのは、兵隊の補充が出来ねえかと思ってのことだった。なら話が早ええ!行くぞ!」
「私も参ります」アリアーシラは言った。「ゼールズの姫の戦闘力、お役に立ちますよ?」
「僕も行く」もう青い顔ではなくなった伝が続く。「マジョーノイは、僕が助け出す!」
「決まりだな」
ニヤリと笑ってファーストは、神宮路を見た。神宮路は小さなため息を吐くと、言った。
「行ってきたまえ。ただし、条件がある」神宮路に言われて、カケル、アリアーシラ、伝の三人は彼を見た。「必ず、無事で戻ってくることだ」
三人は「はい!」と力強く答える。
「あなたも」花音は来花に言う。「あなたも行ってあげてください。兵隊は、一人でも多いほうが良いでしょうから」
「姉さん」来花は微笑む。「なに、私をわざわざ危険の中に追いやりたいの?」
「あなたのそういう面倒臭い所、嫌いですよ?」
微笑み返す花音に、来花はニカッと笑う。
「そうね、いっぺん行ってみたかったのねえ、火星!よっしゃ、いっちょ暴れてやりますかあ!」
○
宇宙船ダンライオンの操縦席とそれに繋がる居住スペースは、驚くほど殺風景で何もなくて、そこら中に酒瓶がゴロゴロ転がっていた。
「ファーストったらあ、私がいないとなあんにも出来ないんだからあ」
彼女なりの色っぽい仕草でルゥイは、べったりとファーストにくっつこうとしたが、彼にぞんざいに「寄るな」と押し返され、反対側のモニターに勢い良く頭をぶつける。
「痛ぁーい。何よう、照れることないじゃなーい」
めげない。
「黙れ。触れるな、触るな、近付くな。何なら俺に許可なく話しかけるな」
「もう、ファーストったら照れ屋さんなんだからあ」
足に纏わり付くルゥイを、ファーストは足を振って引き剥がす。低重力の空間の中、ゴム毬みたいにルゥイはあっちこっちにバウンドした。
「ちっ」と舌打ちしてからファーストは、ラインテクターを着こんだカケル、アリアーシラ、伝を見てから、特に防具の類を着ていない来花を見た。
「あんた、それで行くつもりか?」
言われて来花は、いつも身に着けているスーツを指差す。
「そうよ?」
「何かあるといけねえ。これを着けとけ」ファーストは来花に、直径10センチほどの平べったい円錐状の物体を渡す。「個人用のバリア発生装置だ。宇宙船の光子バルカンくらいまでなら防げる」
「ありがとう。意外と優しいのね」
「良い女にはな」
「あら、良い男に言われるのは嫌いじゃないわ」
「そいつは良かった。どうだ?今夜、一杯付き合わないか?」
「そうね、でも出来れば一杯だけじゃないほうがいいかしら」
何だか大人の会話に、カケルとアリアーシラはどきどきしながら聞き耳を立てる。二人とも、顔を真っ赤にして見合わせたときだった。
「駄目ええ!」
ボンボンに弾んでいたルゥイが、ファーストと来花の間に割って入る。
「駄目なの!ファーストは私のファーストなの!だから駄目なのお」
纏わり付くルゥイを再びファーストが引き剥がそうとしたとき、別の所から奇声が上がる。
「ああ!マジョーノイ!」
頭を抱えて立ち上がる伝を、カケルとアリアーシラは「どうどう」となだめた。
○
亜光速ドライブを抜けた先は、ゼールズ艦隊の真っ只中だった。何隻もの巨大戦艦の間を通り抜ける光景は、まるで映画かゲームのような世界だ。前に来たときより、戦艦の展開が多い。それに——。モニターを見ながら、カケルは思う。まるでこの船を、あの巨大な戦艦が避けてるみたいだ。
実際、戦艦は避けていた。
皆、名声も悪名も高すぎるダンライオンとの接触は避けたいのである。
「この戦艦、前来たときはこんなにいなかった。まさか——」
「そのまさかさ」ファーストはカケルに答える。「地球との、最終決戦の準備だな」
その言葉の重みを、カケルは噛み締める。
「俺たちの不在に、アポイントメントが打ち込まれたりしたら大変だ」
「流石に今日の今日だ。それはないだろうよ。それに——」ファーストはニヤリと笑った。「もしお前らがいない間にアポイントメントが打ち込まれても、何かしら理由を付けて無効にしてやるよ」
「そんなこと出来るの?」
「やってみるさ」
ファーストの軽口にカケルは笑うと、再びモニターに映る戦艦を見る。気が引き締まる思いに、カケルはタブレットケースを取り出すと、ラムネを口に含んだ。
「何だそれは?」ファーストが聞く。
「地球のお菓子。食べる?」
「ああ、貰おうか。——おお、不思議な味だな」
「ラムネっていうんだ」
「ラムネか。覚えておこう」
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