4.ギョ・カイゴンの目的。

「私はゴオライガーのパイロットです」


 あまりにあっさりとしたアリアーシラのカミングアウトに、鈴は目を白黒させる。


「ちょっと、相手はギョ・カイゴンのパイロットなのよ! あんた、何簡単にバラしちゃってるの!」

「このお鈴ちゃんはツインラインのパイロットです」

「そう私があのツインラインの——」


 鈴は笑顔でピースしてから、すぐに慌てて怒ったような顔で、アリアーシラの肩を手の甲で軽く叩いた。


「って、私のほうまで勝手にバラすか!?」

「だって」


 アリアーシラは動じることなく、すまし顔で言った。


「相手が素性をばらしているのに、こちらだけ秘密、ではズルいじゃありませんか」


 鈴はもごもごと「まあ、そりゃそうだけど」と答えながら、ふとミーズのほうを見た。そして今までとは違い、変に格好つけた感じではなく、真顔でこちらを見ているミーズと視線が合い、少しだけ驚いた。


「あの? ミーズさん?」

「ついているぞ」


 肩(?)を震わせて、同時に頭をぷるぷるいわせて、ミーズは立ち上がる。


「最高の協力者に出会えるなんて、僕は最高についている」


 ミーズは長い軟体の腕をブルンと振り回して、自分の体を抱きしめる。勢い余った腕が、ぺちりとミーズの後頭部を叩いた。

 鈴はその行動に、自分が良く知る眼鏡の男を思い出し、気持ち悪いなと思った。

 ミーズは自分の体を抱きしめながら熱く言った。


「君たち! 君たちはなんて最高のベイビーさんなんだ! 頼む! 頼まれてくれ! 僕の頼みを!」


          ○


「冷たぁーいから、気をつけてくださいね、ご主人様」


 クリームソーダを置きながら、語尾にハートがつく感じでメイドさんに言われて、またカケルの鼻の下が伸びる。ふわふわ揺れるスカートを見ながら、フリルが、フリルが良いなあと思ってしまう。


「お前、ハマりそうだな」


 樫太郎がカケルを見ながら、ニヤリと笑う。とたん、カケルは慌てた。


「いや、これはだな、男として当然の反応の範疇であってだな、特別、メイドさんがどうこういう訳じゃないんだ!」

「はあん」


 ニヤニヤしながら、カケルの意見を肯定しない樫太郎。パンケーキを食べながら、同じくニヤニヤ笑うイーイ。


「カケル、自分に素直になったほうが良いと思うな。我慢は体に毒だし」

「違う! 違うんだ! これはっ!」


 立ち上がり、大きな身振り手振りで否定するカケルを、二人はニヤニヤと見守る。


「いや、そんなことより!」ひときわ大きな身振りで、カケルはイーイに向き直る。「イーイ、君がギョ・カイゴンのパイロットだってことのほうがずっと重要なんだ!」

「そうかなあ、僕はカケルのほうが面白いよお」

「そうだな」


 カケルは樫太郎を、「裏切者!」と鋭く指さす。


「良いかい、イーイ? 俺は、ゴオライガーのパイロットなんだ。君たちとは敵同士の」


 カケルの発した言葉に、樫太郎は「あーあ、言っちゃった」と天井を仰ぐ。


「そうか、カケルがゴオライガーの——」


 イーイはナイフとフォークを置くと、少しの間ぼんやりと、何もない空間を見つめる。それから、ゆっくり筒状の口を開いた。


「ゴオライガーは強すぎて、うちの隊長が困っていたよ」

「ヒトゥッテンの水中での機動力には、手を焼いたよ」

「僕、あんまり隊長を困らせたくないんだあ。出来れば隊長の役に立ちたい」

「うん。でも俺たちは、負ける訳にはいかないんだ」

「そうだよねえ。でも、大丈夫!」


 イーイはにっこりと笑う。


「カケルと樫太郎には、他のことで協力して貰いたいんだなあ」


 他のこと、協力、の単語に疑問を感じながら、カケルと樫太郎はイーイを覗き込む。イーイはにっこり笑ったまま言った。


「アポイントメント戦争を終わらせる手助けをして欲しいんだよ」


          ○


 数日前。ギョ・カイゴンの艦の中で、ミーズはマダッコーに聞いた。


「で、隊長?そのパワフルにしてサイコー、スーパーウルトラグレートデラックス、ステキで美しい作戦てのはどんな中身なんだい?」

「それはな」ぐふふとマダッコーは笑う。「こんな手間のかかる、まどろっこしいやり方は終わりにしてやるのさ」

「具体的にはどうするんですかあ、隊長?」


 イーイが聞いた。マダッコーは「ふん」と鼻息を吹いて二人の肩(?)の辺りを抱き寄せた。


「今の海産物の収集の方法、あれはギンサッハの野郎が言い出したことだ。お前たちはギンサッハの野郎は好きか?」

「好まないね」

「好きじゃありませーん」

「上等。俺は常々、ギンサッハのやり口には共感出来かねると思ってたんだ。何だかパレオテトラ様の、そして俺たちの、本当の目的にはそぐわない気がしていたからな」


「確かにね」ミーズは無い前髪を跳ね上げるような動作をする。

「僕もそう思います」呑気な感じでイーイが言う。


 マダッコーは二人を見ながらニヤリと笑った。


「だから俺は考えた。やり方を変えてやろうと」

「ほう」

「どんなふうに?」

「協力してもらうのさ、地球人に。きちんと俺たちの本当の目的を話して、協力してもらうんだ」


          ○


「で、終わらせるってどういうことなんだい?イーイ」


 メイド喫茶にはおよそ不釣り合いな真剣な表情で、カケルは聞く。イーイは相変わらずのほほんとしていたが、少しだけ表情が曇った。


「僕たちの星、カイゴン星は荒野の星なんだ。地表はそのほとんどが赤く、あまり草木も生えない荒野。水は地下にある氷の塊から作り出しているんだ。そんなカイゴン星の人たちに、『水族館』を見せてあげたいんだあ」

「水族館?」カケルは聞き返した。

「うん、水族館。ほかの星にはある、海や川や湖。そこに住んでいる生き物を、生態系を、カイゴン星の人たちに見せてあげたくて」

「だから、海産物を採取していたのか」


「うん」と頷くイーイ。カケルは、「そういうことなら」と、神宮路に相談してみようかと思いつく。同意を求めるように樫太郎のほうを見たとき、彼が紙ナプキンで目じりの涙を拭いているのを見て、少し驚いた。


「カケル」涙目で樫太郎は言う。「司令に、相談してみようぜ。何なら、水族館の件がクリア出来れば、俺たちは戦う必要すらないのかもしれないからな」


「そうだな」

 カケルは微笑む。


「そうと決まれば——」


 不意に口を開いたメイドに、カケルたちの視線が集まる。そこに立っていたのは、やたらスタイルが良いせいで物凄くミニスカに見えてしまうメイド服を着た女性。胸がまた、やたらに豊かだ。


「来花さん」


 カケルは、微妙に冷めた目で来花を見つめる。そんなカケルの視線などお構いなしに、彼女は言った。


「ご主人様、お会計でーす。また、帰って来てくださいね?」

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