5.撃った!
戦闘星団ゼールズ太陽系方面攻略支店支店長室に通されたカケルたち。豪華な机には支店長ゼオレーテが座っており、こちらに背を向けていた。
「ようこそ、ルゥイ補佐官」
くるりと、ルゥイたちの方に向き直るゼオレーテ。その動作を見ながら、ルゥイは、面倒臭い男だなと心から思った。
「こんにちはー!偉そうな態度でありがとー!ルゥイちゃんだよ」
微妙な挨拶をするルゥイに対して、ゼオレーテの脇からマジョーノイが聞く。
「今回はどう言ったご用件でしたでしょうか補佐官?」
「今回はねえ」答えるルゥイの声が、ドスの効いた声になる。「クレームだよクレーム。あんたらねえ、何勝手に火星を開発してくれちゃってるの?」
睨みつけるルゥイに、ゼオレーテはたじろぐ。
「これはだな、我が太陽系方面攻略支店、二万人の民たちの生活向上のためには必要な措置であってだな——」
「私が言いたいのは、そういうことじゃあ無いの。な・ん・で!開発する前に連合機構の審査を受けて無いかってこと。先ずは申請!それから見積もり!許可を得てから開発!あんたのところだってそうやってるでしょう?」
「いや、民たちになるべく早く、長旅の疲れを癒して貰いたい一心で——」
「だからって手続きをすっぽかして良いってことにはならねえんだよ」
ルゥイはスマホのような端末をゼオレーテの机に叩きつける。びくつくゼオレーテ。ルゥイが端末を操作すると、その上の空間に、複数の書類のような画像が浮かび上がった。
「サイン、早く」
「は、はい」ゼオレーテはペンで、空間に浮かび上がった書類にサインする。
「今後またこういうことが有ったら、そんときはアポイントメントの数減らすからな」
「——気を付けます」
ゼオレーテがサインを続ける。
ルゥイに頭が上がらないゼオレーテを見ながらカケルは、自分が戦っている相手の国もいろいろ事情があるんだな、と思った。そんなカケルに、すすすっと、マジョーノイが近付いて来る。
「あなた——」カケルの両肩にマジョーノイは手を置いた。「どこの出身?可愛いわね。どう?補佐官の下なんかじゃなくて、わたくしの所で働いてみない?」
カケルの耳元で言うマジョーノイを見ながら、ギックーとリゴッシはやれやれと言った顔で見合わせる。
「始まった」
「始まったね」
ため息交じりの二人に、樫太郎は聞いた。
「始まった?」
「うん」と、ギックーは答える。「うちの秘書官ときたら、可愛い年下の男を見ると見境なく口説く癖があるんだ」
「いつものことだけど」とリゴッシが続ける。「見るに堪えないね」
困ったようにマジョーノイから離れようとするカケル。樫太郎はそれを見ながら、アリアーシラちゃんがいたらもっと面白くなるのになあ、と思った。
そんなことをしているうちに、ゼオレーテのサインが終わった。
「これで、終わりかね?」
ため息混じりに偉そうな言い方をするゼオレーテに、ルゥイはイラッとして彼を睨む。ゼオレーテはそっと目線を外した。
「はい」ルゥイは端末を片付ける。「今日の所は終わりでーす。もう、あんまりやらかさないでくださーい」
「分かった、気を付けるとしよう。では今度は私の方から質問だ」
ゼオレーテは真顔になって、机に肘をつき、両手を口の前で組む。
「何をしに来た、『地球人』」
その言葉に、ゼオレーテを除く、その場にいた全員の動きが止まる。
「ふふふ」ゼオレーテは笑う。「なぜバレたという顔をしているな地球人」
ゼオレーテはカケルの顔を見ながら、机の引き出しを開き、中から分厚い冊子を取り出した。
「見るがいい!これは、可愛いアリアーシラの写真を纏めたものだ!」
なんだか単語が引くなあ。カケルは思った。お構いなくゼオレーテは続ける。
「小さいときから今日まで、私はたくさんのアリアーシラの写真を保有している。そしてこれだ!」
ばらばらと冊子をめくり、途中のページでゼオレーテは手を止めると、そのページをカケルに見せた。
「こんなところにアリアーシラを連れ込んで、なにをしていた!?」
写真に写る、ゴオラインに乗り込もうとするカケルとアリアーシラ。おそらく、初めてカケルがゴオラインに乗ったときに、タイラードから撮られたものだろう。
「良くチェックしたな」ギックーは引き気味で言う。
「僕、鳥肌が立ったよ」リゴッシが答える。
ゼオレーテは立ち上がると、カケルに詰め寄る。
「良いか、ことと次第によっては貴様——」
パスッと音がして、電池が切れたようにゼオレーテは倒れ込む。続けてパスッと2回音がして、ギックーとリゴッシが倒れ込む。
「勝ったときだけ喋るんだな」
謎のセリフと共に、眼鏡を直す樫太郎。その手にはパラライザーが握られている。
「撃った!」驚くルゥイ。
「あ、いや、面倒なことになりそうだなって思ったんで」
答えながら樫太郎は、マジョーノイにパラライザーを向ける。黙って、両手を上げるマジョーノイ。カケルは樫太郎に言った。
「お前、躊躇ってもんがないときがあるね。ときどき、怖い」
「いやだって、面倒臭くなりそうだったから」
ケロリと答える樫太郎。カケルはギックーとリゴッシに「ごめんなさい」と小声で謝まって、支店長室を後にした。
○
「鳥よ 鳥よ 籠の中——」
歌いながらアリアーシラは、自室の豪華な扉に爆発物を取り付ける。
「鳥よ 鳥よ 籠の鳥——」
電子制御の頑強な扉を破壊するため、爆発物が同時発火するよう、配線をつなぐアリアーシラ。
「久しぶりに会うカケル君。私、緊張しちゃうかしら?」
照れたように頬に両手を当て、嬉しそうにくるっと一回転するアリアーシラだった。
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