第1話「マリン、さかなの旅・前」

1.カケルの口から出た言葉。

「アリアーシラ! 伝さん! 合体だ!」


 ゴオラインに乗ったカケルの声に、クウラインのコックピットからアリアーシラが、グランラインの操縦桿を握って伝が答える。


「はい!」

「おう!」


『雷神合体! ゴオライガー!』


 三人の声と同時に、カケルが、アリアーシラが、伝が、ラインフォートレスの艦橋で神宮路が、それぞれの前にある『G』のマークを押す。とたん、3機のラインマシンから、途轍もない量のエネルギー波が迸った。

 雷の形をしたエネルギー波を纏い、それに引き上げられるように、グランラインが空中へと浮かび上がる。キャタピラが格納され、前後の装甲が脚立を畳むように閉じた。腰と脚部に変形したグランラインの、30度に曲がっていた膝が真っ直ぐに伸ばされ、その巨体は空中に停止する。

 雷を発しながらクウラインは、鳥の脚にも似た部分を大きく左右に開く。そして、胴体の前後を折りたたむと、まるで人間の胸部と腕部の形になって空中で停止した。

 2機の変形をモニターで確認しながら、ゴオラインを上昇させるカケル。ゴオラインの装甲を雷のエネルギー波が這いまわり、2機の中間に位置すると、腕と脚を背後に折り畳んだ。

 ゴオラインを腹部にして、クウラインとグランラインが上下に挟み込む。3機が完全に連結されると、胸部から頭が飛び出した。ゴオラインのコックピットが移動し、頭部に到着すると、角とフェイスガードが開く。最後に胸のパーツが展開して、中から『G』のマークが露出した。


「輝け雷光、轟け雷鳴、蒼き地球を守るため。雷神合体ゴオライガー、正義の光をその身に纏い、猛き雷ここに見参!」


 カケルの口上が轟く。


「出たなゴオライガー!」


 銀色に輝く、27メートルのヒトデ型侵略兵器『ヒトゥッテン』のコックピットから、タコ型宇宙人『カイゴン人』のパイロット『マダッコー』が叫ぶ。


「食らえ、ゴオライガー!」


 ヒトゥッテンの人でいうところの肩の辺りがぱっかりと開き、中から貝の形に似た飛行物体を射出する。貝の形が少しばかり展開し、中からにゅうっとレーザーブレードが出て来る。カケルはそれを見ながら、何だかハマグリが食べたくなった。「食らえ」とも言われたし。

 気を抜いたカケルの元に、飛来するハマグリブレード。慌てたカケルの口から、本人の予想もしない言葉が出た。


「その手は桑名の焼きハマグリ!」


 ゴオライガーの腕を横に薙ぎ払うと、次々に爆発するハマグリブレード。

 カケルは、自分の口から出た言葉をひどく後悔した。何でこんなことを言ったのかと、呪った。


「カケル君、何ですか?今のは?」


 地球外出身のアリアーシラが、素直にカケルに聞いた。カケルの傷口が広がる。35歳の伝は、自分よりも20才近く若いカケルの放った往年の名台詞に、「ぶふっ」と笑いを堪え切れずに吹いた。


 顔が真っ赤になるカケル。


 そんなゴオライガーの背後に忍び寄る、もう一体のヒトゥッテンが腕と思われる部分を振り上げたときだった。


「遊んでんじゃないわよ!」


 銀色の装甲から火花を散らし、ツインラインの豪快な高高度ドロップキックを食らうヒトゥッテン。転がる様に吹き飛ぶヒトゥッテンを見ながら、大地に着地したツインラインのコックピットで、鈴が叫ぶ。


「背中ががら空きよカケル!」


 叫ぶ鈴の隣で、「おお、こわ」と聞こえる声で余計なことを言う樫太郎。その樫太郎に、「何か言った!?」と鈴は腕を振り上げる。

 ツインラインの攻撃を食らったヒトゥッテンは頭と思われる部分を地面に突き刺しのびている。何しろビジュアルがビジュアルだけに、どこが頭だか足だかはっきりしない。ハマグリブレードを射出したヒトゥッテンはゴオライガーとツインラインの性能に明らかに怯んでいる。そう見た樫太郎は、カケルに言った。


「今だカケル! アポイントメントを!」

「おお!」


 答えたカケルが右腕を斜めに構えると、ゴオライガーも同じ動きを取る。


「ライトニング・バインド!」


 カケルの右腕に連動して、ゴオライガーも右腕を振るう。すると雷の束がゴオライガーの腕から迸り、ヒトゥッテンを拘束した。


「轟雷剣!」


 カケルが、ゴオライガーが天に翳した右手に、ラインフォートレスから射出された轟雷剣が収まる。


「「雷光! 轟雷覇斬!」」


 カケル、アリアーシラ、伝の三人の声と共に、ゴオライガーはまさに光速の輝きと化す。光は一瞬でアポイントメントに達し、真っ二つに斬り裂いた。


「一刀両断!」


 カケルの声と同時に、余波を食らったヒトゥッテンの引き千切れた腕が爆発し、アポイントメントが粉々に砕け散り大気に消えて行く。

 鏡のように磨かれた轟雷剣の刀身に、その体躯を映すゴオライガーであった。

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