第8話 初戦闘

 私はスマホからスコップ(吸魂)を取り出すと、両手で握りしめる。

 高まる緊張に、何もしていないのに息が荒くなってくる。

 大きく深呼吸し、慎重に戦いの様子に目を凝らす。


(盗賊のリーダーはどいつだろう。運良く、今私たちは盗賊の背後側にいる。盗賊なら、多分リーダーは後ろに下がっている装備の良いのだと思うんだけど)


 私が盗賊一人一人の装備を見ていくと、一人だけ剣を装備しているものがいた。

 ぼろぼろだが、革製の鎧らしきものも身につけている。そいつは顔立ちは貧相だが、ずる賢そうな目付きをしている。


(十中八九、あいつだ。周りに取り巻きが二人か)


 私はゴブリンと血吸コウモリ達を集めると、小声で指示を出す。

 話し終わると、ディガーが代表して小さくサムズアップして答える。


 それを見て、飛び立つコウモリ達。私も遅れまいとディガー達と一緒に、藪の影から進み出て、できるだけ姿勢を低くしながら走り出す。

 駆け足スキルのおかげか、そんな無理な姿勢でもかなりの速度で走ることが出来る。それでも、もともと身長の低いゴブリン達の方が有利なのか、あっという間に私を抜かして行く。下生えがなくなるところまでたどり着いたタイミングで、上空から落下するように襲いかかる血吸コウモリ達。

 二手に別れ、盗賊のリーダーの取り巻き二人の目を狙い、牙を突き立てている。


「ギャー。俺の目が!」「なんだっ、うぉっ!」「モンスターっ、いったいどこから」


 盗賊達から上がる混乱した悲鳴。


 そこに殺到するゴブリン達。


 真っ先にたどり着いたショウが、そのナイフで盗賊のリーダーの膝裏を切り裂く。

 体重を支えられなくなり、背後に崩れ落ちるリーダーの首めがけ、ディガーとディアナが左右からスコップの刃先を突き立てる。

 めり込む刃先。そのままディガー達は体重をかけ、盗賊のリーダーを引き倒す。ようやく駆けつけた私は大きく振りかぶったスコップ(吸魂)を、仰向けに倒れた盗賊のリーダーの顔面めがけ、力いっぱい振り下ろす。

 スコップが叩きつけられる瞬間、そいつと目が合う。それは何が起きているのか理解していない、唖然としたものだった。


 その目ごと、スコップで顔面を叩き潰す。

 めにょっとした感触。多分、鼻の軟骨を潰した感触だろう。

 あふれでるアドレナリンのせいか、私はそれに特に何も感傷はわいてこない。

 私が再びスコップを振りかぶり、リーダーに叩きつけるタイミングで、ディガーとディアナはそれぞれ血吸コウモリ達に目をやられた取り巻きの二人へと襲いかかる。

 あっという間にそいつらの命を奪うと、皆で揃って雄叫びをあげる。


「うぉぉおっ! 賊のリーダーは倒したぞっ!」


 私の叫び声が聞こえたのか、馬車を守る冒険者達が勢いづく。それに合わせて、動揺が広がる盗賊達。近くにいた盗賊達は、さらに私が潰したリーダーの顔を見て、一人また一人と逃げ始める。


 俺たちは大声を上げながら、まだ戦っている盗賊達に背後から襲いかかる。

 それが契機だったのだらう、バラバラと逃げ始める盗賊達。

 私はゴブリンと血吸コウモリ達に深追いしないように指示すると、皆を引き連れ、ゆっくりと馬車に向かっていった。

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