第35話 アプリレベルアップ

 焔の民の少女が跳んで去った後、辺りにくすぶる熱に喘ぎながら、私は二本目のポーションを取り出すと、頭からかぶる。


 少女の発する熱で、一本目のポーションで濡れていた所も乾いて、すでに熱を持ちつつあった。場所によっては再び火傷状態になってしまっている。

 ひんやりとしたポーションの液体がそういった部分に触れるにつれ、熱と痛みが引いていく。


 ディガー達の様子を伺う。

 けろっろした顔でこちらを見返してくる。


 戦いを決意した気持ちが、すっかり焔の民の少女の出現で吹っ飛んでいたが、ディガーの様子を見て、さらにほんわかしてしまう。


 すっかり戦意が何処かへお出掛けしてしまった私は、次はスマホが熱で壊れていないか確認する。

 ひび一つない。それどころか一切熱くもなっていなかった。


「あ、アプリのレベルが上がっている!」


 ステータス画面を開くと、嬉しい驚き。


 ◇ステータス◇

 《ネーム》 クウ

 《アプリ》 ステータス ガチャlv2(ノーマルガチャ品目増加)new! 投稿lv3(写真 動画5秒 一日二回投稿可)new! 簡易鑑定アプリ

 《加護》  投稿神の祝福

 《スキル》 着火 スワタニ語理解(片言) 駆け足 魔力物質化


「すごい、ガチャも投稿もレベル上がってるよ! ノーマルガチャの品目増加、気になる。投稿も一日二回投稿出来るって、素晴らしすぎる。あっ、ヤバい、急がなきゃ!」


 突然独り言を呟く私に奇異の視線を向けてくるガッソ。しかし、そんなことにも気がつかず、私はディガー達を連れて急いで走り出す。


 少し行ったところでようやく周りを見回す余裕が出来る。

 振り返り、後方にいるガッソに大声で話しかける。


「ガッソさん! 急用できたのでっ。後はお願いしますっ!」


 そういうと、色々と焦げた場所の後始末をガッソに押し付ける形になりながら、私は城壁へと急いだ。


「早くしないとっ! せっかくもう一回動画が投稿できるのに! 戦闘が終わっちゃうかも!」


 焔の民から感じられた脅威的なまでの暴力の圧。それは私にとって、あの少女が負ける姿を想像出来ないぐらいに印象的であった。


 走ること数分、城壁に到着する。


 兵士達も冒険者達もその姿が見えない。

 階段を見つけ城壁の上へと急ぐ。

 そこには居並ぶ武装した人間は皆が皆、城壁の外を一目でも見ようと鈴なりに並んで立っていた。


 私もつられてそちらを見る。

 そこは、地獄もかくやといった感じで、焦土と化していた。


 その中心に居るのは、当然、焔の民の少女。


 彼女はただ居るだけで、周囲のエントたちは次々に燃え上がり、その火はさらに別のエントへと燃え広がっていく。

 城壁の外に広がっていた森すらも、すでに焼失していた。


 相性のいい相手とはいえ、それはまさに圧倒と呼ぶに相応しい蹂躙。


 私はいそいそとスマホを取り出すと、投稿アプリからカメラを起動し、焔の民の少女へと向ける。

 唯一心配していた逆光になるのでは、という不安も、謎の補正で肉眼で見るよりもはっきりと画面にうつる。


(神補正すごいっ!)


 焔の民の少女が、後ろ姿を見せて歩き出す。


 それにあわせて録画を開始する。


「おい、見ろっ。森の主だ!」「でかいぞっ」「まるで森そのものじゃないか……」


 兵士や冒険者達が指差しながら口々に騒ぎ出す。


 その指差す先にあったのは、巨大な竹林。

 しかもその巨大な竹林が、じわじわと焔の民の少女に向かって近づいていた。

 その様子も録画すると、制限時間がくる。

 動画を急ぎ投稿だけ済ませると、簡易鑑定アプリを起動。巨大な竹林に向ける。


『地をはむ者

 種族:バンブーキング

 地下茎で繋がった群生する竹林そのものがエント化した。

 驚異的な生命力を持ち、地に生きるあらゆる者を殲滅しながら移動する。この者の過ぎ去った後には、食い荒らされた荒れ地だけが残るという』


 そうこうしている間に、ついに焔の民の少女と、バンブーキングが邂逅する。








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