第36話 熱と刃と風と

 焔の民の少女が片腕をあげる。

 振り上げられた腕による風圧。その風にまとわりつく炎。それが不思議なことに、どんどんと周りの空気を巻き取って行くのが、炎の流れでわかる。

 巻き上がる熱風が形成され、バンブーキングへと襲いかかる。


 炎の着弾を待たずして、くすぶり、煙を大量に出し始めていた十数本の竹。それが炎をまとった熱風の着弾とともに、激しく燃え始める。

 一気に熱膨張にさらされ、当然の帰結として、破裂音が響き渡る。

 爆竹にも負けないぐらいの騒音が焦土に響く。


 しかし、それはバンブーキングの群生体の、ごくごく一部。人で言えば毛先が焦げた程度のこと。

 バンブーキングは焔の民の少女の初手の攻撃を気にもとめず、自らも攻撃を開始する。


 まずは襲いかかるのは、笹の葉。それも、どういうスキルの効果か、高熱の中でも燃えることなく、まるで小型の手裏剣か投げナイフのように、先端を尖らせ、焔の民の少女を突き刺さんと放たれる。


 襲いかかる無数の笹の葉の刃。


 焔の民の少女は、下げたままだったもう片方の腕をあげる。

 再び巻き起こる熱風。

 しかし、今度のそれは、焔の民の少女を取り囲むように螺旋状に吹き上がる。

 その熱風に、あえなく吹き散らされるバンブーキングの笹の葉の刃。

 焔の民の少女の周りに、火炎旋風が形成されていく。

 焦土の大地を覆い尽くさんとばかりに広がり高く、さらに高く立ち上る火炎旋風。

 そこから発せられる輻射熱だけでも、城壁の上の人間が焼け死んでもおかしくないぐらいの高温。

 すぐさま、城壁にいた誰かがスキルを使ったのか、半透明のベールのような物が出現。何とか息が出来る程度まで感じる熱が和らぐ。


(よ、良かった……。死ぬかと思った。誰だか知らないけど、グッジョブ!)


 私がそんなことを考えていると、火炎旋風が動き出す。

 どうやら中に居る焔の民の少女の歩みに合わせ、進み出したようだ。

 先程の比ではないぐらいの竹が、次々に破裂音を響かせながら燃え盛り、炭化していく。


 その巨大な群生体の十分の一は焼け焦げただろうか。

 さすがにこれは効いたのか、バンブーキングたる群生体全体が大きく身じろぎをする。それはまるで森が揺れ動くかのようだ。


 しかし、ここでバンブーキングも反撃を開始する。


「おい、あれっ!」「ああ、水魔法、しかもエンシェントマジックだ」ギャラリーが騒がしい。


 私は隣の姉御っぽい見た目の冒険者の方に聞いてみる。


「すいません、エンシェントマジックって何ですか?」


 ちらりとこちらに一瞥をして、それでも親切にも答えてくれる姉御冒険者。


「ん? ニュービーかい、あんた。エンシェントマジックってのは古代に失伝したとされる強力な魔法スキルのことさ。今じゃ、ごく稀にああいった災害級の魔物が使うぐらいでね」


「なるほどー。でも、どうしてあれがエンシェントマジックだとわかるんですか?」と、調子に乗ってさらに質問を重ねる。

 さすがの姉御肌なのか、ちゃんと答えてくれる姉御冒険者。


「ほら、ちょうど巨大な魔法陣が現れただろう? あの魔法陣の大きさがエンシェントマジックの特徴さ。魔法を研究している手合いにとっては、ああやって魔物が使う魔法陣を見ることが出来る今みたいな機会が最大のチャンスらしくてね。それでああやって騒ぐ手合いが出てくるってわけ」


「ふむふむ。ありがとうございます! 勉強になりました」と私。


 そうしている間に、すでに半身を焼かれたバンブーキング。だが、バンブーキングのエンシェントマジックの魔法陣が完成する。魔法陣から、水で出来た巨大なガマガエルが這い出してきた。

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