第84話 ユピテル

 七つの魔法陣から伸びた七本の鎖。

 目の前のハイヌに絡み付いたそれが、次の瞬間、一気に引き絞られる。


 鎖が肉に食い込む。あり得ないことに、そのまま、鎖でねじ切るように引きちぎられるハイヌ。

 技巧もなにもない、ただ力任せのそれは、しかし一瞬にしてハイヌの体をバラバラにしてしまう。

 残ったのはただ、八つの肉塊。

 それはまさに人知を越えた威力。


 血に染まった鎖がずるずると魔法陣に引きずり込まれていく。

 そして現れた、血塗れの鎖を腕に巻き付けた少女達。


 片手に剣をさげ、背後に翼を広げ、彼女達は飛び立つ。

 まるで殺戮の喜悦に染まったかのような楽しげな表情を浮かべて。

 私はその様子に圧倒される。


 空を旋回していた無数のハイヌ達へと躍りかかるように接近していく少女達。

 何故か、高笑いのような声が聞こえるのは気のせいだと思いたい。


 ──あれは、石像と同じ姿、だよな。やっぱりユピテルの民なのか? それにしても焔の民といい、彼女達といい、人型のユニットって癖が強過ぎないか。ディガー達のありがたみが引き立つわ……


 そんな愚痴を考えながら地上に視線を戻す。ちょうどショウが斬馬鋏でハイヌを両断した所だった。

 ぶんっと斬馬鋏をふり、血糊を飛ばすショウ。

 くるっと指先で一回転させた斬馬鋏を、ポケットにしまう。


 普段あまり見せないショウのどや顔に、思わずほっこりしてしまう。


「あっ、ジョナマリアさんは?!」と私は思わず叫ぶ


「私は大丈夫ですっ」と返事が岩影から。


 どうやらディガー達の警報音で起きて避難していてくれたようだ。ほっと胸を撫で下ろす。よく見ると、ディアナが護衛してくれている。

 ──グッジョブ、ディアナ!

 私はこっそりサムズアップしておく。

 ディアナもこっそりサムズアップ仕返してくれる。


 そうこうしているうちに、ユピテル達が全身を真っ赤に染め、天より降り立つ。

 辺り一面散乱したハイヌの肉塊。

 断面が力任せに引き千切られたぐちゃぐちゃな様子から、どうもどの個体も鎖で倒した様子。

 凄惨な景色に思わず目を背けてしまう。


 ユピテルの一人が、こちらへと歩み寄ってくる。

 自身が召喚したユニットとはいえ、思わず緊張してしまう私。

 息をのみ待っていると、目の前まで来たそのユピテルが口を開く。

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