第56話 キミマロ再び

 ディガーと私が飛び込んだ通路は、今度はすぐに終わる。

 一気に開ける視界。


 外だ。

 広い。砂浜にうちつける波の音が届いてくる。

 崖に囲まれた小さな内海のようだ。


 先ほど上空から見たときは気がつかなったのを不思議に感じながら、辺りを見回す。


 海面の真ん中に、キラリと光るものが見える。


「あれは……リスティアかっ!」俺は思わず叫んでしまう。


 そこには、ガラスのような容器と、その中で眠るリスティアの姿があった。


 海中から、無数の管のようなものが伸び、リスティアの入った容器を支えている。


「ここならっ」私はスマホを操作する。「キミマロ!」


 魔方陣が弾け、ピンクの流線型の巨体が出現する。

 伸ばされたキミマロのヒレ。私とディガーはそのヒレを足掛かりに、キミマロの背中に乗る。


「キミマロっ。リスティアの方へ行ってくれ」


 私の指示に体をくねらし、宙を泳ぐように突き進むキミマロ。

 その時だった。急にキミマロが反転する。


 上昇に転じるキミマロ。

 一瞬前まで私たちのいた場所に無数の何かが襲いかかったのだ。


 それは、無数の樹の根。リスティアの入った容器を支えているのと同じものだった。

 と、同時にリスティアの入った容器が海の中へと引きずり込まれていく。


 上昇を続けるキミマロ。その背後に迫る無数の根。

 すぐに後ろを向いた私の視界も、迫りくる根しか映らなくなる。

 その時放たれたキミマロの超音波。

 歯が痛くなるようなそれは、しかし、迫りくる根に向けて放たれたものではないようだ。


 上昇するキミマロの前方の物体──私たちのいた内海を覆うように上空にあった半透明のドームのようなもの──がキミマロの超音波で粉々に粉砕される。


(何か前方にあった? 上空から見つからなかったのは、その何かのせいかっ)


 キラキラと舞い散る破片。

 ガラスとも違うそれは、まるで雪のように辺りを満たす。


 そこで一気に速度を上げるキミマロ。最高速度に達したキミマロには流石に追い付けないようで、樹の根の追跡が止まる。


 遥か上空で反転したキミマロ。

 下を向くと、さっきまで私たちのいた海岸線と、その少し内陸部にポツンと見える内海が小さく見える。


「えっ、あれはいったい……」思わず漏れる私の呟き。


 眼下では、その内海を多い尽くさんばかりの大きさの影が、海中からゆっくりと姿をみせ始めていた。







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