第55話 斬馬鋏、唸る

 急ぎ洞窟を進む私達。

 急にひらけた空間に飛び出す。


 先行していたディガーが急停止。

 私は止まりきれず思わずディガーにぶつかってしまう。

 私の腹に食い込むディガーの頭。そのままの勢いで、二人してつんのめって転ぶ。


 その時だった。私の頭があった場所を爆風が通りすぎるっ!

 地面に転んで上を向いていた私は、目の前を覆う爆風に咄嗟に顔を庇う。チリチリと髪先がこげる。


 通路のなかにいたショウも、私の下にいたディガーも無事のようだ。


「っ!」血吸いコウモリが一匹、羽が焼け焦げている。急ぎ、スマホへ送還する。


 仲間が傷ついた事実に、私の心拍が急激に上がる。スマホの操作を終えたタイミングで、ぶるぶる震え出す指。

 私はスコップを握りしめ指の震えを誤魔化すと、爆風の出所を探す。

 目に飛び込んでくるのは、フワフワと宙を浮く黄色の物体。


「クラゲ……?」


 私達が飛び込んだ広間には、無数の黄色のクラゲがフワフワと浮かんでいた。

 そのうちの一匹が、ふらふらとこちらに近づいてくる。

 私の下から抜け出したディガーが、そのクラゲに向かってスコップを振るう。


「あっ、ダメだっ……」


 咄嗟にディガーの服をひっつかんで、通路に飛び込む私。

 背後ではディガーの振るった炎熱のスコップで火がついたクラゲが、爆発する。

 爆炎が私の背中に襲いかかる。


 通路に飛び込む私の横を、逆に広間へ進む姿がうつる。それは斬馬鋏を構えたショウ。


 ショウが斬馬鋏を振り上げる。その時だった、斬馬鋏の刃の部分が、むくむくと大きくなる。ショウの身長を軽く越え、私と同じくらいの大きさまで膨らむ刃。

 ショウが斬馬鋏を振るうと、その巨大化した刃が爆風を吹き散らす。それはまるで巨人の張り手のように。


 一振りで爆風が四散する。


 そのまま広間へと進むショウ。

 その手にある斬馬鋏は先程までの巨大化が嘘のように普通の鋏と同じ大きさに戻っている。

 そこへ襲いかかる、浮遊するクラゲ。


 今度は斬馬鋏を突き刺すように伸ばすショウ。すると、斬馬鋏の刃の部分がするすると伸びていく。

 まるで槍のようになった斬馬鋏の刃が、ショウに迫るクラゲを突き刺す。まるで力を込めたようには見えない自然さで、ショウが鋏の指穴に通した手を左右に開く。


 その動きにあわせて、鋏の刃が開く。

 伸びに伸びていた刃が開くことで、突き刺さっていた部分からクラゲが真っ二つに引き裂かれる。


 中に溜まっているであろう可燃性ガスに引火して火を吹きながら、引き裂かれたクラゲの残骸が地面に落ちる。


 テコの原理を明らかに無視したその様子に目を見開いてしまう私。


 仲間がやられたことを理解しているのか、ふわふわとショウに集まり始めるクラゲたち。


 ショウは淡々と斬馬鋏を振るい、時に突き刺し、クラゲを倒していく。


 くいくいっと私の服が引っ張られる。

 下を見るとディガー。


 ディガーの指差す先には広間の反対側の通路。

 どうやらここはショウに任せて進もうと言っている様子。


「ショウっ」思わずショウに声をかける私。


 ショウはこちらに背を向けたまま左手でサムズアップをする。


「……わかった! 頼むっ」私はディガーを引き連れ、広間を横切ると、新しい通路へと進んだ。


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