第57話 人造巨人
大質量の物体が海面を割り、その頭を覗かせる。
押し出された海水が内海を取り巻く砂浜に押し寄せ飲み込んでいく。
徐々に姿を現していく、それ。
巨大な頭部。
管のような樹の根が縦横無尽に張り巡らされ、根の先端が棘のように無数につき出している。
次に現れたのは腕。
巨大な頭部に比べると矮小に見える短さ。
手はなく、腕の先端は丸まっている。
そしてずんぐりとした胴体。
その人で言えば心臓にあたる部分に、キラリと光るものが。
──リスティア!?
しかし、それもすぐに蠢くように樹の根が絡めとり、体内へ取り込まれてしまう。
「な、なんだよ、あれ。まるでサボテン……」
ずんぐりむっくりとした体躯と、それを取り巻く無数の棘に見える樹の根の先端。私には眼下のそれは人型をした巨大サボテンに見えた。
その巨大サボテンの頭部から人影。押し出された膿のように姿を現す。
それはヒョガンと呼ばれていたひょろひょろの錬金術師だった。
しかし、その姿は人間だった時の面影しか残していない。
下半身は完全に樹の根と化し、巨大サボテンと一体化している。
上半身も緑に染まり、身体中で皮膚が裂け樹液を撒き散らしながら蔦のようなものが飛び出してはまた収納されてを繰り返している。
樹液を撒き散らしながら恍惚の表情を浮かべるヒョガン。
その虚ろな目は遥か上空の私たちの姿をしっかりと捉えている様子。
「あはっ、あはっ、あは」ヒョガンの哄笑が上空の私たちまで届く。俺はその耳障りな声を聞きながら、いつでも対応出来るようにスマホを構えておく。
「素晴らしい、素晴らしいよ、これは。とろけてしまいそうだぁ……」さらに続くヒョガンの声。それは段々と崩れたものになっていく。
その横に飛んで近づいていく、ふくよかな体型の人影が見える。あれは確か、爆風を使ってくるケイオスという錬金術師。
「おい、バカ。しっかりしろ」ケイオスがヒョガンに話しかける。
「ケイオース。よう、そんな口をさ、今の俺にきくなよなー。今の俺はさぁ、原初の巨人に最も近づいた存在なわけー。お前の小言にはぁ、飽き飽きしてたんだよ、あぁ!」
「ちっ」
ケイオスは舌打ちを一つ。そこに襲いかかる、ヒョガンの巨人から生えた樹の根。
ケイオスを中心に爆風が生じたかと思うと、漂う爆炎を突っ切るようにケイオスが飛び出す。その後ケイオスはちらりとこちらに視線をやると、一気にそこから離脱していく。
「え、何? 仲間割れした?」私はその突然の様子に唖然としながら、なかば無意識に構えたスマホで、その様子を動画撮影していた。そしてそのまま投稿しておいた。
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