第9話 side 冒険者ガーリット

 最初はいつものちょろい依頼だと思っていたんだ。

 馬車の護衛、それも何度も仕事をこなしたことのあるリック商会の馬車なら大丈夫だろうと、油断があったのかもな。

 途中、崖崩れでいつもの街道が塞がってしまっていたのがケチのつき始め。

 運んでいたのが食料というのも良くなかった。

 腐らすわけにないかないと泣きつかれ、ついつい安全な街道から外れたせいで、今俺たちは盗賊の襲撃にあってしまっている。

 唯一ましなのは、やつらが素人丸出しなことぐらい。

 多分、食い詰めて盗賊やり始めたばかりなんだろう。

 問題は人数だ。

 ほぼほぼ素人とはいえ、数の力はばかに出来ない。


 俺たち6人じゃあ、馬車を守りながら切り抜けるのは難しい。

 これでも俺たちのチーム『黎明の嘶き』は、ちっとばかし名前も通り始めた頃で、若手のなかじゃあホープと持て囃されていたんだが。


 もうこうなったら馬車を捨てて依頼人だけ連れて逃げるしかないかもな。馬車の食糧目当てなら追ってこない可能性も十分にある。これが手慣れた奴等なら、犯行の口封じのために全力で殺しに来るだろうが、そこまで手慣れてるようには到底見えないしな。

 まあ、馬車の荷物の値段によっちゃあ、依頼失敗の違約金で俺たち全員奴隷落ちもありうるが、命あっての物種さ。


 盗賊達も自分達の数の優位を理解しているのか、長柄の武器で牽制しながら、ちまちま石やらなんやらを投げつけてきて嫌らしい攻撃をしてくる。


「ガスっ。投石から馬を守れ! リック商会のベニートさんはちゃんと馬車のなかに隠れているよな?!」


 俺は盾持ちのガスに声をかける。馬がやられたら立ち往生確実だからな。逆に馬がやられたら確実に荷物を捨てて逃げるしかないんたが。


「大丈夫、任せろ! ガーリット!」


 ガスが答える。


「ガーリット! どうするの? このままじゃあ、じり貧だよ!」


 弓兵で、俺たちのチームの紅一点のリンダ。


「わかってる! だが、今は耐えるしかない。リンダはできるだけ敵の足を狙ってくれ」 


 足さえやっとけば逃げるときも追いかけて来ないからな。


 俺がいかに逃げるかを考え始めた時だった。

 突然、盗賊達の後方から悲鳴が上がる。


 俺は近づいてきた盗賊達と切り結びながら、一番目のいいリンダに問いかける。


「どうした! 見えるか、リンダ?」


「最悪! モンスターだよ! あれは血吸コウモリだ!」


「なんだと! Dランクのモンスターじゃないか。しかも昼間に外でか?!」


「間違いないよ! ヤバイね。盗賊達が混乱してくれるのはいいけど、こっちを追いかけられたら逃げきれないよ」


 確かに不味いな。血吸コウモリは、ダンジョンの暗殺者、初心者殺しと恐れられているモンスターだ。

 暗いダンジョンのなかで音もなく忍び寄り、急所に牙を突き立ててくる血吸コウモリはダンジョンに潜った初心者冒険者の死因ナンバーワンと言っていい。普段、ここら辺はFやGランクのモンスターしか出ないはずなのに。


「何匹見える?!」


 リンダに問いかける。


「4、5、……6匹だ! 最悪の上乗せだ、ゴブリンもいる!」


 リンダからもたらされたのは、聞きたくなかった知らせ。

 ゴブリンは知能が高く、道具も使ってくる。しかもその小さな体に反して人間以上の身体能力がある。一部、人族と交易関係のある部族もいるらしいが、何にしろこちらもDランクのかなり手強い種族だ。


 何より最悪なのは、異なる種のモンスターが共闘していること。

 てことは、より上位の存在がいる……。


 ゴブリンと血吸コウモリ達はあっという間に敵のリーダーらしきやつを倒すと、雄叫びが響き渡る。Dランクモンスターのそれは、実体のある圧力となって、辺り一面に響き渡る。

 素人に毛の生えたような盗賊達なんて、その声ですっかり萎縮すると、次々に逃走を始めてしまう。逃走を止めるリーダーを欠いた盗賊達はあっという間に散り散りになってしまう。


 それも仕方ない。俺だってあの雄叫びは、身がすくむ。

 俺は覚悟を決める。盗賊達だけなら荷物さえ諦めたら生き残れたかも知れないが、あいつら相手にそれは望むべくもない。

 唯一出来ることをしますか。

 俺と数人が囮になって、リンダとベニートさんだけでも逃がしてやらないとな。


 俺がそう、指示を出そうとしたとき、リンダの声が響く。


「あ、あれ、人間じゃない?!」






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