第4話 初めての食事

 あのあとすぐ、スコップを抱えた女の子の方のゴブリンが帰ってきた。その手にはウサギのようなお肉が。


 その子は私に獲物を見せにくる。

 手に持つお肉は、首がスコップで落とされ、なかなかにグロテスク。その子自身は誉めて誉めてと言っているようで、ニコニコしている。


 私は笑顔がひきつらないよう気をつけながら優しくそのゴブリンの頭を撫でてあげる。


「立派なお肉だね。すごいね」


 語彙が乏しいのは勘弁してほしい。殺したてのお肉を見て、動揺していた私にしては頑張った方だ。

 しかしその子は、それで満足したようでお肉をナイフを持つゴブリンに手渡すと、その子も地下茎掘りに参加し始める。


 ナイフを持ったゴブリンはするすると皮をはぎ、解体していく。一口大になっていくお肉。ナイフを持ったゴブリンは、どこからか摘んできた草をみじん切りにし、そのお肉にまぶすと、焼き始める。


(あれは何だろう? ハーブかな。)


 私の疑問をよそに、その頃には人手も増えて次々に掘り起こされ、たまっていく燃料の地下茎。次々にかまどに投入されていく。

 しばらくすると肉の焼ける香ばしい香りがし始めてきた。


 お肉が焼ける間に、ナイフを持ったゴブリンは、どこからか取ってきた大きな笹のような葉っぱを折り、くるくるとまるめ始める。


 私が何してるのかと見てると、その視線に気がついたのか、手振りで教えてくれる。

 湧水の桶にその折ったものを入れると、水を汲んで渡してくれる。


「コップなんだ。器用だね」


 こくこくと頷くナイフを持ったゴブリン。その大きめの耳がひくひくしている。


 お肉が焼き上がる。

 地下茎を掘っていたゴブリンたちも集まり、皆でかまどを囲むように座り込む。

 木の枝に突き刺し焼かれていたお肉を、ナイフを持ったゴブリンが私に手渡してくる。


 ジーとこっちを見てくるゴブリンたち。

 どうやら私が食べるのを待っているようだ。

 私は一口、肉にかぶりつく。


 口一杯に広がるハーブの香り。滲み出てくる油。取れ立ての熟成されていない肉特有の固さはあるが、異世界初の食事は空腹と相まって体に染みるような旨さだった。


 私が食べたのを確認すると、ゴブリンたちも肉にかぶりつき始める。

 モグモグと一心不乱に肉に取り組むゴブリンたち。私は不思議な気分でその姿を眺めていた。

 まさか異世界に来て、ゴブリンたちと焚き火を囲み一緒に肉にかぶり付くことになるとは思ってもいなかったので。


 焼かれたお肉はきれいさっぱり食べ尽くされる。


 お腹いっぱいになり、寛いでいた私はふと気がつく。


「そうだ、君たちの名前は?」


 ゴブリンたちに問いかけると、皆、ふるふると首をふる。


「そっか、名前ないのか。不便だし、名前つけてもいい?」


 顔を見合せるゴブリンたち。しばらく何か話していたかと思うと、スコップを持った雄のゴブリンが代表してサムズアップしてくる。


「オッケー。じゃあまず君は」


 私は最初にスコップを上げた雄のゴブリンを見ながら名前を考える。


「名前、ディガーとかどうかな?」


 スコップを抱えたゴブリン、改めディガーは嬉しそうにこくこくと頷く。そのときだった。私のスマホがピロンと、通知音を発した。


 私は慌ててスマホを確認する。

 新しく出ている通知をタッチする。


 そこには、こんな文章が表示されていた。


『ガチャアプリにユニット編成が開放されました。』






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る