第3話 ゴブリン
「ユニットってぐらいだから、襲われるってことはないと思うけど……」
私は一度スコップに手をかけ、いつでも抜けることだけ確認する。改めてスマホに指を伸ばす。
「あっ、手が滑った!」
私は結構緊張していたのだろう、スマホ画面の、ゴブリンをまとめて三体、同時召喚する所をタッチしてしまう。
目の前の足元に、大きめの魔法陣っぽい円が、ウィンという音をたてて展開される。
私は思わずスコップを握りしめる。
くるくる回り始める魔法陣がポンと音をたてて弾ける。
そのあとに、3つの影が現れた。
影からゆっくりとその姿を現す。
そこにはゴブリンが三体、直立不動の姿勢でたたずんでいた。
「あれ、意外とファンシー?」
ゴブリンたちは、よくある醜悪な半裸の小鬼といった感じではなく、粗末そうだがしっかりと服を着ているし、見た目もホビットやノームのような愛らしさがあった。
私は思わずその見た目にほっと安堵の息をつく。右も左もわからない状況で、今のところ唯一の味方なら、見た目の威圧感がないのは大いに歓迎だ。
取り敢えず話しかけてみることにする。
「あー、こんにちは。私は……」
そこでふと自分の名前が思い出せないままなのに気がつく。
(どうしよ。ステータスも名前空欄だったし。取り敢えず空欄だからクウとでも名乗っとくか)
「えっと、クウと呼んでくれ。よろしくね」
私の言葉を理解している風のゴブリンたち。
ビシッと敬礼のポーズを取ると、口々にわちゃわちゃと理解できない言葉で返事らしき事を話している。
(おっと、多分こっちの意思は伝わってる風だけど、話す言葉は理解できないのか! 結構不便かも)
そこで私のお腹が鳴る。安心したらお腹が空いてきた。
「取り敢えず食べ物探さなきゃな……。水は湧水の桶があるけど。火もたいた方がいいよね」
私の独り言に反応して、真ん中のゴブリンがなにやら身ぶり手振りでアピールしてくる。
「えっ、なに?! うーんと、スコップ? スコップが欲しいの?」
こくこくと頷く真ん中のゴブリン。
私は念のため、スマホからもう一本スコップを出すと、それを真ん中のゴブリンに手渡す。
スコップを受け取ったごゴブリンは、何だか嬉しそうにすると、また身ぶり手振りで何かアピールしてくる。
スコップを振りかぶり、振り下ろす動作。そして何かを掴んで口許に持ってくるとモグモグする動作をしている。
「うーんと、スコップで殴る?」
私がきくと、こくこくと頷くゴブリン。
「で、何か食べる?」
ビシッとサムズアップしてくるゴブリン。
「えっと食べ物探してきてくれるってことかな。わかった、よろしくね」
私の言葉に、跳ねるような足取りで草っぱらに突っ込んで行くスコップを抱えたゴブリン。
気がつくと、別の一体のゴブリンが近づいて、私のズボンの裾を引っ張っている。残った二体のゴブリンとも、何か物言いたげな瞳で見つめてきている。
(な、何かつぶらな瞳がこっちを見てる……)
私はおずおずと尋ねてみる。
「君たちも、もしかして何か手伝ってくれるの?」
嬉しそうにシンクロしながら、こくこくする二体のゴブリン。
私はスマホから残っていたナイフも出し、スコップと一緒に差し出してみる。
近くにいて裾を引っ張っていたゴブリンがスコップを受け取り、残りの一体がナイフを受け取っていた。
スコップを抱えた方は良くみるとメスのゴブリンっぽい。彼女は一度私にお辞儀のような事をする。そのまま慎重な足取りで、地面に注視しながら、最初のスコップを抱えたゴブリンとは反対の方へと向かっていった。
ナイフを手にしたゴブリンは手早い動きで、地面の草を刈り始めている。私はどうしていいのかわからず、ぼーとその様子を眺めていた。
しばらく眺めているとナイフを手にしたゴブリンは野営地を作っているみたいだとわかる。
その頃には、きれいに草が刈られ、それが真ん中に集められていた。次にゴブリンは石を集めてくると、なにやらごそごそと組み始める。
私はナイフのゴブリンに声をかける。
「それはかまどかな?」
こくこくと頷くゴブリン。
手元は素早く石を組み、補強している。
あっという間にそれっぽいかまどが組み上がる。
ちょうどそこに、スコップを抱えて始めに飛び出していったゴブリンが帰ってきた。
私が何か捕まえたのかとそちらをみると、スコップを抱えたゴブリンと目が合う。
ふっと目をそらして項垂れるゴブリン。
その手にはスコップだけ。
それだけで色々察してしまった私は、項垂れるゴブリンの肩を思わず、労るようにポンポンと叩く。
ナイフを抱えた持ったゴブリンが、やれやれと言わんばかりに肩をすくめると、何やらスコップを持ったゴブリンに指示を出し始める。
それを聞いて急に元気になったスコップを持ったゴブリン。
とんと胸を叩くと、スコップで地面を掘り始める。
「何を掘ってるの?」
私がきくと、ちょうどそのタイミングで探している物を見つけた様子。ゴブリンが何やら土まみれの塊を見せてくる。
ゴブリンが土を払い落とすと、それはジャガイモをふたまわりぐらい大きくしたような地下茎だった。
「それ、食べるの?」
プルプル首をふるゴブリン。
また、ゴブリンが身ぶり手振りを始める。
ゴブリンはその地下茎をかまどに持っていくと、石の間に置き、手のひらをわしゃわしゃさせ始めた。
「えーと、火をつける?」
嬉しそうにこくこくとするゴブリン。
(そっか。あれは焚き火の燃料なんだ。地下茎って普通は水分多くて燃えないはずだけど、せっかくだし試してみるか)
私はかまどに向かって手のひらをかざすと、スキルを唱える。
「『火よ』」
私の手のひらの先に生まれた火種。それはすぐに謎の地下茎に飛び火すると、ゆっくりと地下茎が燃え始める。
「凄い、火がこんなに早くつくなんて。しかも、燃焼もゆっくりだし。なんで?」
スコップを抱えたゴブリンは焚き火がつくとスコップを振り上げ、踊り始める。
なかなかコミカルな踊り。
私は思わずクスッとなってしまう。
いつもの癖でスマホを取り出し、写メろうとして、カメラアプリが無いことに気がつく。
(あっ。でも、もしかしてあれなら)
私はまだ一度も開いていないアプリのアイコンをタッチする。
そう、投稿アプリを立ち上げる。
すると、メニュー画面に、カメラのアイコンが。
迷わずカメラを起動し、楽しげにスコップを振り上げ踊り続けるゴブリンを画面に捉えると、そのまま写メる。
スマホ画面には投稿と削除の選択肢が現れる。
(うわ、保存が選択できないよ。これはあれか。一日一回しか投稿出来ないし、複数写真撮っておいて後から選ぶのも出来ないのか。ま、いいや。ぼちっと)
私は投稿を選ぶ。
これが私の異世界初投稿となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます