第69話 ドォアテアルの街、再び

 リスティアを送り届け、私はドォアテアルの街へと戻ってきた。


 元々の依頼がリスティアをサイドワンダー準公爵の元まで届けるという物だった。

 縁のあった相手を目の前でむざむざ見捨てるのは忍びなかったけれど、かといって王都でのこれ以上の滞在は面倒事の予感しかしないという理由もあり。


 引き留めるリスティアを華麗にスルーして、王都を脱出してきた次第です。何故か引き留めに、どんどん増えて行く兵達もいたけど。最終的には彼らにに見送られながらキミマロに飛び乗って来ました。


 そうそう、またリスティアが拐われるんじゃないかって?


 王国の重鎮と言ってもいいらしいサイドワンダー準公爵の鼻先での犯行、しかも準公爵自身にまで襲撃の手が及んだ訳ですよ。王国も威信をかけた警備体制と、捜査の手を広げる、はず。

 逆にそんなところに、私みたいな新人冒険者がいたらどうなる事やら。

 拐われた重要人物の救出という名の、立派な旗まで立っちゃってるしね。味方からしても目障りだろうし、敵の錬金術師達のヘイトを一身に受けること間違いなしのフラグという奴です。もうどう転んでも面倒くさそう。


 まあそれに、一応保険もかけました。


 帰りの空の旅、スマホを見たら結構いいねがたまっていました。

 ヒョガンとケイオスと呼ばれていた錬金術師達の仲間割れの動画がほどほどにバズってたんですよ。

 触手推しの謎の集団からの、猛プッシュがかいま見えて、思わずコメント欄は、そっとじ、しました。


 それはさておき、そのいいねで回したレア確定ガチャ。出たうちの一つがこちら。


 レア度 レア

 属性  ユニット

 名称  ガーディアンスピリット


 リスティアが目をつぶってキミマロにしがみついているのをいいことに、空の上で早速呼び出す。

 展開された魔法陣から現れたのは半透明の煙のようなもの。

 その煙がゆるゆるとたなびき、渦巻いたかと思うと、形を取り始める。


 ──翼の生えた帽子?


 元が不定形の煙っぽい何かのせいか、ふらふらと形が定まらない。私には空を飛んでいるそれは、帽子にしか見えなかった。


 スマホで簡易鑑定アプリを起動し帽子に向ける。

 表示された情報がこちら。


『名称未定

 種族:ガーディアンスピリット

  憑依した相手に守護を与える。クウの眷属。健康状態、良』


 私はこっそり小声でリスティアに憑依するようその帽子に指示する。

 ふわふわと漂う帽子がその翼を動かしリスティアのぷるぷると震えている頭の上まで移動する。

 次の瞬間、帽子の翼が下向きに折れ曲がるとリスティアのその尖った耳へと侵入していく。

 するすると煙と化しあっという間にガーディアンスピリットはリスティアに同化してしまった。


 私は慌てて鑑定鑑定アプリをリスティアに向ける。


『リスティア=アレスター

 種族:ハーフゴブリンプリンセス

 エルフとゴブリンのハーフ。牙狩族ゴブリンの姫巫女。

 逃亡奴隷。守護霊の加護』


 見た目、大丈夫かと心配したが、無事にリスティアにガーディアンスピリットは憑依した様子。私はその時は、ほっと胸をなでおろした。


 そういった保険の事を思い返しているうちに、すっかり懐かしく感じるようになってきたドォアテアルの街がようやく眼下に見えてきた。

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