第62話 イルカ形態

 私はディガーからついっと視線をそらすと思わず言い訳めいたことを呟いてしまう。


「いやぁ、出来心で。つい」


 そのまま視線をスマホに落とす。


 ──どうやって、このメタモルフォーゼ状態解除するんだろう……


 この焔形態は危険過ぎることだけは嫌というほどわかった。とりあえず解除出来ないかスマホを弄るが、相変わらずいっこうに反応しないスマホ画面。


 ──このまま樹の根の巨人に攻撃したら、絶対リスティア巻き込むよね……


 その時だった。スマホ画面の片隅に、カウントダウンの文字が現れる。

 5、4、3、2、1……


 カウントダウンの文字が0になった瞬間、私にまとわりついていた炎がほどけるように体から離れていく。

 そのままスマホに吸い込まれていく炎。


「もしかして、時間経過で自動解除?」と呟く私。


 ディガーが注意を引くように私の服を引っ張る。

 その指し示す先には、樹の根の巨人の焼け焦げた頭が徐々に元にもどって行く様子が。


 頭を構成する根が、欠損した部分を埋めようと、うにょうにょと伸びている。

 伸びた根が頭部を形づくるにつれ、樹の根の巨人が体を起こそうともがき始める。


「こんなに早く、復活するのっ!?」私は慌てて再びメタモルフォーゼしようと、操作を受け付けるようになったスマホ画面に指を叩きつける。


 ユニット装備アプリを開く。

 焔の民の少女の名前が、グレーに変化していた。


 その横には、86395という数字が。私が何が起きているのか理解できずに固まっている間に、その数字は減っていっている。

 1秒に1つ。


「クールタイムってこと? えっ、八万秒って?」


 私は焔形態になるのは諦め、キミマロの名前をクリックした。


 キミマロが送還される。


「あっ」


 キミマロが送還されたことで、当然乗っていた私とディガーは空中にそのままになる。

 後はただ、重力に身を任せ、自由落下あるのみ。


 ふわっと内臓が浮き上がるような恐怖。

 すぐさま迫る海面。

 あっという間に水面を割り、体が水中へ。


 そこまで高度が無かったことが幸いし、衝撃は大したことはない。スマホから光が溢れている。


 急ぎ、水面を目指し水をヒレで蹴る。


「ぶはっ、あっ」


 その勢いのまま、空中へ飛び出す私の体。

 どうやら水中でスマホが光った時に、メタモルフォーゼが完了したようだ。


 私の背中には、まるで翼のような二対の背ビレ。

 全身の肌も、ウェットスーツのような質感に変化している。


 何故か自在に動かせる二対の背ビレ。それは空気ではない何かを捉えて私の体を宙に固定させているようだ。

 下を見るとディガーが顔を出した所。


 掬い上げようとすると、大丈夫っというようなゼスチャーをするディガー。


 近くに浮いてきた炎熱のスコップに飛び乗るディガー。まるでサーフィンのようなその姿。次の瞬間、炎熱のスコップの刃の部分から炎が噴出する。

 スコップとそれに乗るディガーが前に飛び出すように進み始める。

 器用にバランスをとって乗りこなすディガー。

 にかっと笑ってサムズアップするその姿に、私はこんな場合なのに思わず苦笑いしてしまう。


 私は気を取り直す。

 メタモルフォーゼが終了する前に決着をつけようと、完全に立ち上がった樹の根の巨人の目掛けて突撃するように空を駆け始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る