第61話 メタモルフォーゼ!

「これは、もしかして、ユニットを装備するアプリか!」


 私はスマホを持っていない右手をかかげる。

 渦巻くように炎が指先からはしり、手首を通過しながら螺旋状になって肘へと至る。


 持ち上げた瞬間だった。私の手にまとわりついていた炎が、腕から広がるように回転しながら飛び出す。

 それは炎の竜巻となって、迫りつつあった樹の根の槍を焼きつくし、縦横無尽に動きながら弾き飛ばしていく。


「熱くない……」


 見るとキミマロ達も不思議と平気な様子。


 左手に持つスマホも、溶けていない。

 そのままちらりとスマホ画面を見ると『メタモルフォーゼ・焔形態』の文字が。しかも、点滅している。


 恐る恐る画面にタッチする私。焦げることはないが、同時にスマホも文字画面が点滅するばかりで、反応しない。


 ──この、メタモルフォーゼ? しているときはスマホが使えないのかな。


 私はスマホから視線を外すと、ためしに指先から炎が出ないか試してみる。


「なんか、くすぐったいような?」


 私の手にまとわりついていた炎が、一部動く。

 それに伴って、さっきは感じる間もなかったさわさわとした触感が、手のひらをくすぐる。


 指先から、炎がゆっくり飛び出す。


「お、おお!」


 どうやら、まとわりついていた炎を自由に動かせるようだ。


 そのまま、出来心で人差し指と親指だけ伸ばす。手のひらを銃の形になるように。

 そしてなんとなく、樹の根の巨人の頭を狙ってみる。


「ばんっ」と、ちょっとふざけて言ってみる。


 指先からちょっぴりの炎が離れる触感。

 その炎が、目にも止まらぬ速さで翔んでいく。


 私の狙いが甘かったのだろう、炎が樹の根の巨人の頭の左端に吸い込まれるようにして、当たる。


 一瞬の静寂


 爆音が届く。巨人の頭の向こう側で特大規模の爆発が起きたのが見える。

 その衝撃のせいか、巨人が左斜め前に倒れ込む。

 あらわになる巨人の後頭部。そこは三分の一が綺麗な円錐形に吹き飛んでいた。


「本当に、撃てちゃった……」そのあまりの威力と、冗談じゃすまない様子に、思わず漏れる呟き。


 ふと後ろを見ると、さすがにやりすぎですよ旦那、みたいな顔をしたディガーと目があってしまった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る