第60話 コマンド実行

 私の指は当然、『はい』をタッチする。


 タイムレスでスマホ画面が切り替わり、見慣れたガチャマシンとは少し異なる機体が表示される。二本のパイプが、そのガチャマシンに刺さるように繋がれている。


 そのパイプの口にそれぞれ、今ガチャで出たカプセルが吸い込まれていく。


 パイプを通過していくカプセル。

 真ん中のガチャマシンまで到達すると、ガチャマシンが煙をぷすぷす出しながら暴れるように揺れ始める。


 ──これは混ざってますよって表示?


 思わず内心ツッコミを入れてしまう。その間に混ざるエフェクトは終わったのか、ガチャマシンの揺れが止まる。


 新しいガチャカプセルが排出される。

 それは不思議なマーブル色のガチャ。


 ガチャカプセルが開く。


 レア度 なし

 属性  アプリ

 名称  ユニット装備


 表示されるリザルト画面。


「また、レア度なし? アプリなの、これ。え、でもユニット装備って、ディガー達、普通に武器とか装備している……よね?」


 私の頭に疑問符が渦巻く。

 その時だった、焔の民の少女があくびをする。

 大きくあいた口から放たれる、超高温の放射熱。それだけで、焔の民の少女の正面にある、まだディガー達のいる洞窟のある崖に、そして樹の根の巨人に超高温の熱が叩きつけられる。


 樹の根の巨人の表面が一瞬にして炭化する。崖からも、そこに点在していた植生が焼け焦げ黒煙が上がる。


「うわっ。ちょっと!」思わず私は焔の民の少女に声をかける。


 なーに、とでも言うような表情で首をかしげる焔の民の少女。


 一刻の猶予もないことを悟って、私はリザルト画面のユニット装備をダメ元で実行する。


 スマホ画面がアプリダウンロード画面に変わる。

 スマホを中心に空中に展開される魔法陣。

 それが逆時計回りにスマホに収束すると共に、ダウンロードが完了する。

 私はスマホのホーム画面で、燦然と輝く新着アプリアイコンをタッチする。


 ・ディガー

 ・焔の民の少女

 ・キミマロ


 シンプルに名前が並んでいる。


 ──これで、誰の装備品を変えるか選ぶのか? 何でディアナとショウはないんだろう。血吸いコウモリ達はまあ装備出来なさそうだけど。……命名した名前があればそれが優先表示されるんだ。


 私はなんと無く、真ん中にあった焔の民の少女の名をタッチする。


 焔の民の少女が、送還される。


「えっ」


 光の玉となった焔の民の少女。それがスマホに向かってくる。

 と、同時に展開されていた炎の壁が、消失。


 ここぞとばかりに、全身から煙を撒き散らしている樹の根の巨人が、これまでにない量の樹の根の槍を射出してくる。

 ヒョガンの哄笑とも愉悦の雄叫びともつかない、騒音付きで。


 焔の民の少女だった光の玉がスマホに吸い込まれた、次の瞬間。スマホから炎が溢れだす。

 炎はまるで意思を持っているかのように、スマホを握る私の左手をかけ登り、私の全身に絡み付いていく。


 それは一瞬の出来事。熱さも感じるまもなく、気がついてたときには、私は炎をまとっていた。

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