第97話 現れた敵

 私は、ばっとジョナマリアの方を向く。

 目に入ったのは、バタバタと倒れていく魔女達。


「ジョナマリアっ! 皆、どうしたっ」と悲鳴のように叫ぶカルファルファ。


 気がつくと、ジョナマリア達がいる大源泉の床が、何やらモクモクと紫色の煙で覆われている。

 倒れた魔女達の姿が煙に包まれていく。

 カルファルファは今にも今にも飛び出して行きそうな剣幕。


「何だ、あの煙!? いったいどこから……」俺は起動したままだった簡易鑑定アプリを煙に向ける。


 スマホに表示される内容に、一瞬、ほっとする。


「カルファルファさん! ストップ! あの煙は眠らせる作用があるみたいですっ。吸わないように気をつけて下さい!」と私。


「眠る……。そうか、ジョナマリアも皆も生きているんだな」と明らかにホッとした様子のカルファルファ。


 私はその間にも煙の発生源を探る。


 ──この煙を止めないことにはどうにも出来ないぞ。


 一人で探しても埒があかないと、私は今召喚できるユニットを全員召喚する。

 次々に光る魔法陣。ディガーに、ディアナ、ショウ。血吸いコウモリ達に、キミマロのオールメンバー。

 グレーアウトしているユピテル達は残念ながらお留守番。焔の民の少女は当然、ご遠慮頂く。煙が可燃性の場合はもちろんの事、地下空間というだけで、居るだけで息苦しそうなので。

 酸素消費量を考えただけでも。


 すぐさま召喚された血吸いコウモリ達が散開し、煙の出所を探ってくれる。

 待つこともなく判明した、その場所は別の昇降用の縦穴だった。

 急ぎそちらへと向かう私たち。大源泉の床を囲むように、部屋の縁に沿って通路がある。煙に触れないよう、一段高くなっているその通路を駆けていく。

 走りながら私は問いかける。


「カルファルファさんっ、あちらの縦穴はどこへ通じています?」


「外よ。クウさん達が入ってきたのとは別の入り口に通じているわ」


「そちらにも誰か魔女の方が居ますか?」


「──居るとしたら、スニタスだけのはず。門番の役目は基本的に一人なの。そもそも門は魔女以外には開けられないし。監視も中央管理室って所で遠隔監視の魔道具を使っているから。迎撃も普通なら大源泉の光がある。だからもし外から侵入されたなら、スニタスはもう……」と声を落とすカルファルファ。


 ──スニタスさんって確かさっきカルファルファさんと交代してくれた従姉妹さん、だったか。


 カルファルファの話しぶりだとスタニスさんは無事には済んでない可能性が高いみたいだ。ほとんど接点のない相手だったがジョナマリアさんが悲しむと思うと、私も辛い。そして、例の縦穴が見えてくる。

 もくもくと紫色の煙が縦穴の出口から溢れている。

 余りの量に、迂闊に近づけない。


 ──無事な方が居なくて敵だけなら、焔の民の少女を突っ込ませるのもありかな?


 私がそんな危険な思考に揺れていた時だった。

 縦穴の出口からぼふっと言う音。

 これまで以上の大量の紫色の煙が排出されたと思ったら、煙の排出が止まる。まるで縦穴の中に残っていた煙をまとめて押し出したかのように。


 そして煙の晴れた縦穴の出口から、現れる二つの人影。


 一人は肉付きのよい男。

 もう一人は小太りの小男。


 それは錬金術師ケイオスと、冒険者ギルド職員のフロンタークだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る