第21話 スタンピードの呼び声

「こ、これをどこで?! どんな姿をしていましたか?」


 一目見た先輩ギルド職員が、食いつくように乗り出す。

 私はその勢いに仰け反りながら、答える。


「え、普通に薬草を採取する場所の近くですよ。根がうねうねしている木でした」


「うねうねした根の木! エント系かっ。すぐに、測定器を!」


 先輩が後輩の職員に叫ぶ。


「えーと? 買い取りはしてもらえます?」


「ふぅ。すいません、取り乱しました。ええ、はい。これから種類を測定しますが、買い取り自体はさせていただきますよ。どの種類でも杖の素材になりますので。それに、この宝珠は源泉管理官のところに持って行くといいでしょう」


 と、先輩が紫色の石を指差す。


(こ、これが宝珠だったんだ! え、じゃあこれでジョナマリアさんに会いに行く大義名分できたの? よっしゃあ!)


 私が内心ガッツポーズをしていると、どうやら後輩職員が器具を持ってきて素材の検査が終わったらしい。


 何故か先輩ともども青白い顔をしている。


「これはエントオブノウレッジの枝になります。このモンスターは魔法攻撃が非常に強力なはずです。よく倒せましたね」


 私は戦闘の様子を思い出す。多分畳み掛けるようにディガー達が攻撃していたから、魔法を使う暇がなかったんだろうと思う。とはいえ、そのまま伝えるのも気がひけたので、適当にお茶を濁しておく。


「まあ、何とかなりました」


「何とか、ですか。さすがガーリットが戦闘能力で推薦しようとしていた逸材と言うわけですか」


 なにやらぶつぶつと呟く先輩職員。しかし声が小さくてよく聞き取れない。

 そこで顔をあげ、こちらに聞かせるように話し出す先輩。


「しかも、これは変異体です。枝は高級級の杖の材料となります。今お金はお持ち致しますね」


「はい、よろしくお願い致します」


「それでなのですが、周囲に何か他に異常はありませんでしたか?」


「異常、ですか? なにぶん冒険者に成り立てなので、見落としがあるかもしれませんが、パッとわかる異常は何も見つけられませんでした。何か気になる点があるのですか」


 私が尋ねると、ちょうど後輩がお金の入った袋を持ってくる。

 私がそれを受けとるのを見ながら、先輩はゆっくりと一つ頷き、話し始める。


「はい、変異体というのは、通常それ単体では現れないのです。通常個体が無数に湧き、そのうちの1、2体が変異体へと進化する事が多いのです。これはモンスターの種類にも依るのですが、変異体はその群れのリーダーになる事が多く、例えばゴブリンなどが大量発生し、そのうちから変異体が出ると、その変異体が群れを率い、組織的に街などを襲う事が過去何度もありました」


「……スタンピード?」


 私の呟きに答えるように先輩は話を続ける。


「そうです。エントも、かつてエンシェントエントの変異体が現れた際には、スタンピードが発生しています。歴史書のなかでは、まるで森が溢れるようであったと」


「……それはどうなったのですか?」


「国が一つ、滅んだそうです。その国のあった場所は今でも深い森に覆われています。完全にモンスターの領域と化し、その国に住んでいた人々は流浪の民となったと言われています。この国にはこれまでエントの目撃例がほとんどないのです。至急、各地に調査依頼を出すことになるでしょう。クウ様も、その時は是非ともよろしくお願いいたします」


「えっと、私はFランクの初心者ですけど?」


「しかし、その実力は確かなようです。しかも、依頼受注から完了までの日数を見ても、長距離移動の速度も素晴らしい様子。もちろん強制ではありません。そこはご安心ください。それでは手配がありますので」


 そう言い残し、先輩ギルド職員はそそくさを部屋を出ていってしまった。





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