第22話 宝珠を捧げて

 残された後輩ギルド職員に挨拶だけして、私もその場を立ち去る。


 目的地? もちろん決まってる。源泉のある部屋に向かって行く。

 近づくにつれてだんだんと薄暗い雰囲気が漂い始める。

 部屋の作りなのか、はたまた源泉特有の何か魔術とか魔法的な要素が働いているのか。


(まあ、普通にスキルで魔法が使える世界だし。今まさに、魔女の女性に会いに行く訳だし。どちらかと言うとファンタジー的、なんやかんやで、こんな薄暗さが醸し出されているって言われた方が逆に納得出来るかも)


 増していくばかりの薄暗さとは反対に、私の足取りは軽やかだ。

 何故か薄暗さまでもが、かえってこの方が落ち着くんじゃない? と肯定的に感じられてくる。


 階段にたどり着き、降りていく。

 部屋に入る。


 そこには、燭台の仄かな光に浮かび上がる、魔女ジョナマリア。


 その姿を見るのは2度目だと言うのに。

 初めて見たときよりもその美しさが衝撃となり、剣となり、私の胸を貫くかのようだ。


 とっさに何もしゃべれなくなり、固まったかのようになる私に魔女ジョナマリアは気がつき、話しかけてくれる。


「あら、クウさん。何か源泉にご用ですか?」


「あ、はい、そうなんです。たまたま手に入れて。そう、宝珠を手に入れたんですよ」


 緊張が重い枷のようになって私の口に絡みつく。

 もっともっとしゃべりたい気持ちと、下手なことを口走ったらどうしようという不安が拮抗し、緊張が高まる。


「あら、優秀なんですね。まだ登録しても間もないのに、もう宝珠を手に入れるなんて。私の知っているなかで、こんなに早く変異体を倒した方はいませんでしたよ」


「いやー。あはは」


 私は照れてそう言うのが精一杯であった。


「さっそく宝珠を源泉に捧げますか?」


 そんな私の様子に何か感じたのかすぐに話を進めてくれる魔女ジョナマリア。

 私もその提案に乗って答える。


「ええ、お願いいたします」


「わかりました。ではまず宝珠を持って、こちらへ」


 私は言われるがまま、部屋の中央へと足を進める。


(確かこれでスキルが手に入るんだよね。スキル自体はガチャでも手に入るけど、ここでスキルは手に入れた、という実績があった方が今後増え続けるだろう私のスキルの事を、何かと誤魔化せそうだし)


「それでは宝珠を両手に挟むように持って下さい」


 私は取り出した宝珠を両手に挟んで持つと、その手の外側から、魔女ジョナマリアが自分の手を添える。

 ひんやりとして、なめらかな魔女ジョナマリアの手のひらが、私の手を包み込む。

 思わずピクッと体が動いてしまう。


 そこに、ジョナマリアの顔が近づいてくる。

 ジョナマリアは片膝をつきながら、額を私の手につけると、その唇から言の葉が零れる。


『源泉管理官ジョナマリア=サンクルスの真名において請い願い奉る。時空間の狭間の遠き地に住まう、いと高き異界の主たる御方よ。ここに捧げし宝珠を受け取り、その恩寵を授け賜え……』


 ジョナマリアの呪文のような何かの途中で、私の持った宝珠が輝きだす。

 ゆっくりとほぐれるように、宝珠がバラバラになり、その粒子が手のひらからこぼれだす。

 粒子は渦巻く紫の光となり、下へと落ちていく。そのまま、大地に吸い込まれていく。

 どんどんと私たちの手からこぼれていく紫色の光の粒子。


 あと少しで、手の中の物が空になるという時、それまで吸い込まれるばかりであった紫色の光が、地面を駆け巡るように展開し、魔法陣を形づくる。


 その間も続く魔女ジョナマリアの呪文。その美しい声にあわせて、魔法陣が輝きをますと、魔法陣の光が一気に一点に収斂する。

 収斂した光が一直線に私の胸元へと向かってくると、私の胸ポケットにしまったスマホに当たり、紫色の光がスマホを包み込む。


 ちょうどジョナマリアの呪文が終わる。

 ゆっくりと手を離し、立ち上がるジョナマリア。


 私はその感触を名残惜しげに感じながらもおくびにも出さないように顔を取り繕う。

 そのままスマホを取り戻し画面を確認する。

 システムメッセージが表示されている。


 メッセージを開く。

 そこには、『簡易鑑定アプリのダウンロードが完了しました』と書かれていた。



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