第23話 簡易鑑定アプリ

「それは、もしかして魔道具ですか? 見たことのない形をしています」


 私がスマホを見ていると、ジョナマリアが尋ねてくる。


「あ、そうなんです。私の故郷ではありふれた道具なんですが」


「魔道具がありふれているなんて素晴らしい故郷ですね。そちらは、どうやって使うのですか?」


「ええと、……時間とかがわかりますよ」


 私にも、微かに理性が残っていた。この世界で、自分の命綱とも言えるスマホの機能。

 それをある程度、誤魔化さなきゃと、僅かばかりの分別が働く。そして、何とか差し障りのないと思った内容の返答をする。


「まあ、それは凄いです! あ、魔道具を見ていたと言うことは、お時間は大丈夫ですか? もう宝珠を捧げる儀式は終了です。得られた恩寵、スキルは上の別室で検査してもらえます」


 そういって出口を指し示すジョナマリア。


 私は暗に退室を促されているのをひしひしと感じる。


 スマホの事を誤魔化した引け目もあり、もっと話していたい気持ちを圧し殺す。このまま無理に話を続けようとすると、余計な事を口走るかもしれないし。


 そう言うわけで、私はジョナマリアに暇ごいを告げる。後ろ髪引かれながらも部屋を出て、そのまま冒険者ギルド自体をあとにした。


 簡易鑑定アプリが気になっていた私は、最初に見つけた人気のない路地に入る。

 さっそくスマホを取り出す。


 画面を開くと、確かにアプリが一つ増えていてる。虫眼鏡のようなアイコンで、新着であることを示す、キラキラと輝くエフェクトをしている。


 私はさっそくアプリを起動してみる。

 すると、バーコードリーダーのようなカメラ画像がスマホ画面に写る。


「これは、この枠の中の何かを入れるのかな?」


 私は肩掛けカバンを漁って、何か丁度いいものが無いか探す。


「よし、これにしてみるか」


 そう言いながら取り出した下級ポーション。


 それを片手で持ち、反対の手で、簡易鑑定アプリを起動したスマホの画面の枠に、下級ポーションを写す。


 すると、読み込み中のくるくる回るマークのあとに、画面に文字が表示される。


『下級ポーション

 クウの持つ神の恩寵製。

 細胞活性化効果弱。持続効果:二時間』


「でたでた鑑定結果! なるほど、読み込みに意外と時間がかかったな……。しかし、鑑定結果が、不思議な内容だ。まず神の恩寵製ってのが何なのかっていう疑問が。 たぶんガチャ産だって事なんだろうけど。後は下級ポーションが傷を治すのに、即効性があるわけじゃないって事か」


 私は一旦、下級ポーションをしまい込む。


「よし次は誰か、人を試そう!」


 路地から見える人物に目掛け、こっそりスマホのカメラを向ける。当然、簡易鑑定アプリは起動してある。


「あれ、なかなか情報の読み取りが出来ないぞ?」


 私が左右にスマホを振りながら、何とか簡易鑑定をしようと思ったのだが、まったく読み取りが上手く行かない。


 どうやら動いている物を鑑定しようとしたとき、カメラの枠の中に完璧に写った状態で数秒キープが必要のようだ。しかも対象が小さすぎるとアプリがデータをよんでくれないのか、鑑定結果が出ない。


 そうこうスマホを振り回しているうちに、ある方向を向けたら、読み取り中のくるくるが始まる。そのままそちらを向けていると、簡易鑑定に成功する。


 それは今居る路地の奥。私は、そちらのほうへカメラを向けた状態。その先にはゴミの山がある。


 私は、ごみの中にうずくまる人影が居ることに、気がついた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る