第95話 大源泉にて

 眼下に広がるそこは、まさに戦場だった。


 原初の巨人の心臓だったと言われている大源泉。

 一体どんな物なのかと思っていたのだが、完全に想像の斜め上をいっていた。

 てっきり比喩か何かと思っていたのだが、それは確かに心臓と言われてみればそうとしか見えない姿だった。


 それも、超巨大な。


 地下に広がる広大な空間。

 そこにいるのは無数の魔女達。

 その魔女達の足元の床全てが、かつての原初の巨人の心臓、その一部だった。


 肉感的で、でこぼことした心臓の表面を床とし。

 血液が脈打つ代わりに、その表面を光が縦横無尽に走っている。宝珠を捧げた時に見たのと同じ光が。

 そこを忙しげに行き交う魔女達。

 殺気だった様子がここまで伝わってくる。


「さすがジョナマリア。マナの光が一気に安定し始めてるわね」


 カルファルファが大源泉を眺め感嘆したように洩らす。


「マナ?」


「そうよ、あの床を走るように巡っている光。さっきまでは、まるで暴れまわるようだったの。ジョナマリアはあそこよ」


 カルファルファの指し示す先。

 そこにはジョナマリアを中心として、彼女を取り囲むようにして二重の円形を形成している一団がいた。


「あれは何を?」


「まあ、見てなさい」と自信たっぷりのカルファルファ。


 跪いて祈りを捧げるような表情を浮かべるジョナマリア。

 取り巻く魔女達の口からは詞のような呪文のようなフレーズが口々に紡ぎ出されているのがここまで聞こえてくる。


 床につけられていたジョナマリアの両手。それが天高く掲げられる。

 手の動きに合わせ、彼女を取り巻くようにマナの光が収束。ジョナマリアの頭上で魔法陣が生まれる。

 黄金色の魔法陣に、次々に床からマナが吸い出されていく。

 マナが組み込まれる度、拡大する魔法陣。


 最初はジョナマリアの広げた両手ぐらいの大きさだったそれが、ついには周囲を取り囲むように魔女達と同じ大きさまで広がる。


 周囲で唱えられていたフレーズが止まる。

 ゆっくりと両手を下げていくジョナマリア。

 その動きにあわせて、魔法陣も下がっていく。


 床に再びつけられたジョナマリアの両手。

 その瞬間、魔法陣も床へと吸い込まれていく。


「ほぅ」カルファルファのため息「ね、すごいでしょ……」


「え、あ、はい」


 ──残念ながら、何が凄いのか良くわからないよ。あっ、そうだ。


 私はスマホを取り出し、簡易鑑定アプリを起動した。


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