第74話 葛藤と優しさ
「これは、大きいですね」と驚いたように目を見開く魔女ジョナマリア。
「手触りは、すべすべしているんですね。この子、名前はあるんですか?」とそっと指先で触れ、撫でながら。
「キミマロ、です」と私は答える。
「キミマロ。変わった響きの名前ですね。よろしくお願いいたしますね、キミマロ」
何故か大人しくしているキミマロ。身じろぎ一つしない。
──キミマロ、そんな空気を読める子だったんだ……
と、私は内心驚きながらジョナマリアに声をかける。
「ジョナマリアさん、そろそろ出発しましょうか」
何が気に入ったのか、キミマロのボディーを指先でツンツンしていたジョナマリアが、はっと振り返る。
「はい、どう乗るんですか?」
「キミマロ」
私の呼び掛けにほとんど腹が地面に接するまで、その体躯を地面に近づけるキミマロ。しかし軽自動車ぐらいの高さまであるその背に乗るのは一般人にはやはりなかなか難しい。
私はジョナマリアを待っている間に回したガチャから出たばかりの、こんなときのための新兵器をリザルト画面から取り出す。
目の前にガチャりと音を立てて現れる、それ。
私は手早く持ち上げると、金属でできた部分を広げキミマロのすぐ横の地面におろす。
「何ですか、これは?」不思議そうなジョナマリア。
「脚立です。私が支えていますので、登って下さい」
私は揺れないようにしっかり脚立の脚を固定する。
──運、良かったよな。最近コモンガチャ運に恵まれている気がする。もし脚立がでなかったら最悪ディガー達に担いで貰うことになっていたかも。
脚立を登りきったジョナマリアはその一番上の段で立ち上がると、軽やかなジャンプで、キミマロに跳び移る。
私も遅れまいと急いで脚立を登る。
土の地面は流石にでこぼこで、ゆらゆら揺れる脚立。
──前みたいにキミマロに胸ビレ動かしてもらって、駆け足スキル任せに跳び乗るべきだったか?
ふらふらしながらも、何とかキミマロに私も跳び移る。
背ビレに掴まって立っていたジョナマリアが、そんな私を受け止めてくれる。
目の前に迫るジョナマリアの顔。
ふわりと立つ香り。
「ご、あっ! ……ありがとうございます」と、反射的に謝りそうになった私。
「いえ……」と、不思議そうな表情のジョナマリア。
私は照れ隠しもあって急いでキミマロに跨がると、ジョナマリアにも座るように促す。
目の前にはジョナマリアの後頭部。その先に見えるキミマロの背ビレ。いつもキミマロに乗るときに掴んでいたそれが、今だけは果てしなく遠く感じる。
──いや、これは無理……。ほとんど背後から抱き締める形になるじゃん。
私の葛藤が不思議と伝わったのか、キミマロが二対あるうちの背ビレ側の翼を軽く動かす。それは後ろに下がれば何とか根本が掴める位置から生えていた。
「キミマロ?」
さっさと掴みな、とばかり再びはためく翼。
「キミマロっ!」掴まれたら明らかに飛びにくいだろうそれを、私は有り難く掴ませて貰う。
そうしてようやく始まる。私と魔女ジョナマリアの波乱に満ちた旅が。
主に私のハートにとっての、波乱に。
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