第73話 大源泉へ

 私は何気ない風を装ってシュバルツに答える。


「仕方ありませんね。依頼内容はジョナマリアさんを大源泉まで護衛する、ですか?」


 その内心は少し複雑であった。魔女ジョナマリアとの旅に心踊る気持ち少し。キミマロの事が把握されている事から、王都で準公爵の屋敷の壁を壊したのもしっかりシュバルツまで伝わっているのかな、という疑問。

 そんなこんなで、私は質問を続ける。


「ちなみに、大源泉ってどこにあるんですかね」


「それは、私から説明します」と魔女ジョナマリアがこちらを向く。


「まずは引き受けて下さってありがとうございます、クウさん」


 と頭を下げる魔女ジョナマリア。そんな姿さえも美しく、私は思わず見惚れてしまう。


「……い、いえいえ。そんな!」


 思わず挙動不審になる私の様子をニヤニヤした表情で見ているシュバルツの猫顔。


「大源泉なんですが、霊峰サマルンドの地下にあります」


「霊峰サマルンドですか……」


「ここからですと、馬を使ってで一月の旅です。ただ、クウさんの飛行型の騎獸の速度が──」


「だいたい2日じゃろうな」とシュバルツが口を挟む。


 私がじっとりとした視線を送ってもどこ吹く風とニヤニヤしているシュバルツ。私はため息一つで、視線を外す。


「なるほど。出発はいつにしますか? 私はすぐに出られます」


「ほう。流石じゃの。旅の物資の準備不要とはのー」


 私は煽るようなシュバルツは無視をして、魔女ジョナマリアにだけ話しかける。


「ジョナマリアさんも食料等は不要ですよ、こちらで用意します」


「ありがとうございます。何から何まで……。では、二時間後に出発しましょう。街の門の所でお願いします」


「ではジョナマリア君は準備を。クウ殿は報酬の話をしようかの」とシュバルツ。


 頭を下げて退出する魔女ジョナマリア。

 私は本日2度目のため息と共に、シュバルツと向き直った。


 ◆◇◆


 二時間後、私は街の門の外で空を見上げていた。

 ──無駄に疲れた……


 シュバルツとの腹の探りあいの果て、ようやく解放された私は魔女ジョナマリアを待っていた。


「お待たせ致しました」と、そこへ響く玲瓏な声。


 振り替えると、旅装に着替えた魔女ジョナマリアの姿があった。


 普段の仕事をしている時のローブ姿から一変。

 銀糸の刺繍が施された深紅のマントに身を包み、落ち着いた色合いながら品のよい乗馬服のようなスタイル。

 全身のそこかしこに見え隠れする宝石類は魔法の気配を漂わせている。


 思わず見惚れている私に、首をかしげて魔女ジョナマリアは問いかける。


「どうかされましたか?」


 はっと我にかえる私。


「いえ、では出発しましょう」と見惚れていたのを誤魔化そうと素っ気なくなってしまう。


 私はスマホを取り出し、キミマロを召喚した。

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