第102話 焔と闇

 自由を獲得した異界の魔王が、ふわりとその身を跳躍させる。

 闇をマントのようにひるがえしながら、大源泉の上へと降り立つ。


 全くの無表情。まるで作り物のような顔。

 先程の雄叫びが嘘のような無機質さ。


 その足元から、ゆっくりと大源泉の床が闇に染まり始める。

 円形に広がって行く、闇。

 闇の中には、無数の蠢く、雑多な蟲達が、かいまみえる。

 無機質な顔の異界の魔王とは真逆に、闇に蠢く蟲達からは強烈な歓喜の感情が放射されている。

 これから世界を喰らう、歓びの感情が。


 脚の長いモノ。

 脚の短いモノ。

 胴の太いモノ。

 いくつもの胴を持つモノ。


 徐々に広がる闇の中で身を捩り、互いに重なりあい、その節だった体を伸ばしていく、蟲達。


 私はそれを見ながら必死にスマホを操作しようと、試みる。


「なんなの、なんなのよ、あれは」呆然と呟くカルファルファの声が私まで届く。視線を移せば、フロンタークが死んだことで洗脳が解けた様子のショウがカルファルファを抱えるている。ちらりとこちらを見るショウ。

 俺はスマホを必死に弄りながら、目線だけでショウに肯定を伝える。


 そして大源泉の上では、ディガーとケイオス達も争いを止め、避難を開始している。

 そのケイオスに迫る、闇から伸びる信じられないほど長い真っ黒な触角らしきモノ。それを紙一重でかわして飛び上がるケイオス。

 ディガーとディアナはジョナマリアさんと他の魔女達を次々に回収している。彼女達もフロンタークが死んだことで、次々に目を覚まし始めた様子。

 起きた魔女達を出口へと急ぎ誘導している。

 ──フロンタークの操っていた煙、生化学的なガスとは違った魔法的なものだったのかな……?

 ロード画面から動かないスマホ。逸れがちの思考で、今となっては確かめようもない、そんな益体もない事を考えてしまう私。


 どんなに高いところから落ちても、水に使っても壊れなかった、神製のスマホ。

 しかし、今は反応がいつも以上に鈍い。


「急げ、急げ! あっ!」


 その時だった、急に固まっていたスマホが動き出す。

 私は急ぎガチャのリザルト画面からユニット召喚のページへ。


 その間にも広がる大源泉の床の闇。

 この世界の各地の源泉に繋がっているらしい大源泉が全て闇に覆われるとどうなるのか。私にははっきりとはわからないが、それでも悪いことが起きる事は確実だろう。


 大源泉の床が全て闇に覆われる直前、私はようやくスマホの操作を完了する。

 目の前に描かれる召喚の魔法陣。

 もう一人のアルティメットレアである、焔の民の少女が燦然と現れた。




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