第37話 ガマガエル
魔法陣からのそのそと這い出した水で出来たガマガエル。
ぱかっと口を開くと、その巨大な舌を焔の民の少女へと叩きつけんと、火炎旋風に向かって横凪ぎに振るう。
その膨大な質量の水で巻き起こす剛風が、火炎旋風の空気の流れを乱す。
ガマガエルの舌先が火炎旋風を吹き消しながら、今まさに通り過ぎようとした時だった。
突如とどろく爆音。
質量があるかと勘違いするぐらいの衝撃波が生まれる。それは辺りを薙ぎ払うように広がる。
巨大な水蒸気爆発だった。
舌先を失ったガマガエルが、短くなった舌を口の中にしまい込む。
悠然と佇む焔の民の少女。
どうやらガマガエルの舌先は少女に触れた瞬間に、その全てが蒸発してしまったようだ。
炎そのものの少女にとって、水で出来た巨大なガマガエルは天敵かと私は心配して見守っていたが、どうやら相性は悪くない様子。
衝撃波で倒れた隣の姉御冒険者に手を差し伸べて立たせてあげる。
「……生意気なニュービーね」とニヤリと笑って、私の差し伸べた手を、ぐいっと引っ張ってくる姉御冒険者。
私は、上手い返しがわからず、曖昧に笑うと、戦闘の続きを観察するため前に向き直る。
ちょうど焔の民の少女が両手を天高く向け持ち上げた所だった。
ぶんっという異質な音が城壁まで届く。
掲げられた両手の間に白い光が現れる。
白い光が、ほどける。
ほどけた光が魔法陣を形作ると、一気に拡大していく。
それはすぐに、ガマガエルが召喚された時の魔法陣が、小さく感じるほどの大きさまで広がる。
「な、なんだ! なんなのだ、あれはっ!」「あ、あんな大きなのが存在したなんて」「神だ、神の奇跡だっ」「綺麗……」先ほど騒いでいた一角がまた、ざわざわとうるさい。
魔法陣が輝き出す。
いや、それは私の目の錯覚だった。
遥か彼方にある、この星系の恒星から放たれる恒星フレアが、魔法陣に降り注いでいた。
強制的に作成されたオゾンホールを通るフレアが大気と作用しオーロラとなって天地をつなぐ。
それは、まるで極彩色のエンジェル・ラダー。
美しく、禍々しい圧倒的なエネルギー。それを、焔の民の少女は、お菓子をつまむかのような気軽さで、嬉しそうに咀嚼し始める。
そう、これまで全く読めなかった彼女の表情が、明らかに歓喜に染まっているのが、私にもわかる。
一噛み、そしてまた、一噛み。
その度に、輝きを増していく焔の民の少女。
ついにその姿は白く白く変化し、まさに白炎と呼ぶに相応しい姿へと至る。
恒星そのものの輝きを得た彼女の姿。直視すれば目が潰れるのは必定。城壁の上に居合わせたものたちは、誰もが顔を伏せ、身を低くし、その威光に恭順するかのようにこうべを垂れる。
全てのフレアを食べ終えた少女が、一息、息を吐き出す。
その息の先には、萎縮し、動きを止めていたバンブーキング。
その森たる体に、少女の息が吹きかかる。
それだけで、バンブーキングの体は一瞬で枯れ果て、炎を上げる間もなく、全てが灰と化していく。さらさらと崩れるバンブーキング。そして、バンブーキングを通りすぎた少女の息は、そのまま、見える限りの大地を灼熱へと変えていった。
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