第42話 ギルド長
ギルドの入り口で小太りの小男がひょこひょこしている。どこかで、見かけた事のある姿。
ガーリットがその男に話しかける。
「フロンタークさん、クウを連れてきましたぜ」
「ああ、良かった。お待ちしておりました、クウ様ー。皆様お待ちかねですよー」
私はそれを聞いて、横目でガーリットの顔を伺う。こちらに少し顔を向けて、フロンタークにばれないように、にやっとするガーリット。
「さあさあー。こちらですよー」とフロンタークがせかす。
「じゃあ、無事にお使い終わったから俺はここで失礼するぜ」と言うと、くるっと背を向け立ち去るガーリット。
私はその背に感謝を込めて、軽く頭を下げる。
そして、ひょこひょこと先に進んでいたフロンタークのあとを追う。
フロンタークに連れられやって来たのは重厚な樫のような木材で出来た扉の前。
フロンタークは気軽な感じでその扉をドシドシと叩くと返事を待たずに開ける。
「ギルド長ー。クウ様を連れてきましたよー」
ずかずかと部屋に入って行くフロンタークに続いて私も部屋に入る。質実剛健といった調度品が並んでいる
そこに居たのは、ガッソと、リスティア。そしてよくよく見ると、一匹の黒猫が黒檀の机の上で丸くなっていた。
「えっと、お待たせしました? ガッソさんて、ギルド長だったんですね」と私。
フロンタークの行状に頭が痛いとばかりに顔を押さえていたガッソがこちらを向いて口を開く。
「あん? 違うに決まってるだろ。俺は副ギルド長。ギルド長はこちらだ」
そういって、立てた親指で、くいくいっと黒檀の机を指差す。
「机……?」
私は困惑してその場に居合わせた人たちの顔を順に見ていく。皆の視線を追う。その先には、机の上の黒猫。
黒猫がぬーんと伸びをして、身震いした瞬間、その背中から、ぶわっと翼が広がる。
ふるふるとその翼を振り、黒猫のがこちらを向くと、口か開く。
「これでわかったかの? わしがギルド長をしてるシュバルツじゃ」
「は、翼! しゃべった?!」と、驚く私。それを尻目に、シュバルツは右前足を前後に動かす。
それが合図だったのか、職員らしき人が入ってきてお茶を用意し始める。
驚き、あたふたしてしまう私
(しゃべる猫がギルド長? 猫に翼? これでわかったって言ったけど、翼があるとギルド長ってこと?)
その時だった、机の上で、シュバルツが翼をはばたかせる。ふわりと浮き上がるシュバルツの体。そのままふわりと机から空中を移動すると、前足でポンポンと一つの椅子を叩きながら口を開く。
「さて、クウ殿。立ち話もなんじゃし、こちらに座りなされ」
「え、はい……」
恐る恐るシュバルツに近づきながら、指定された椅子にそっと座る。
こちらを見てガッソが口を開く。
「ギルド長は、翼猫種なんだ。クウは翼猫種は、はじめてか」
「ふぉふぉふぉ、街を救った英雄殿にそこまで驚いてもらえるとはの」とシュバルツ。
「……ギルド長も、そこらへんにしてください」
お茶の準備を終えた職員が退室する。
「さて、それでは取り敢えずお茶でも飲みながら、お呼び立てした用件を伝えていくかの。どれ、皆もまずは一杯」と言うと、シュバルツは平皿に注がれたミルクをなめ始めた。
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