第50話 錬金術師

 先ほどたどった道を逆走する。

 ディガー達も私のあとに続く。


 運が良いのか悪いのか、誰とも行き交わない。


「見えてきた!」 


 部屋に駆け込む。「リスティアっ! 大丈夫か?」


 そこには座ったままのリスティアと、サイドワンダー準公爵の姿が。

 何事かと、こちらを見る二人。


「良かった、無事か」と私は呟くと同時に、急にいたたまれなくなってくる。


(もしかして、盛大に勘違いしていた?)


 そこへ、私の後からついてきたディガー達も部屋の中へ。

 それを一瞥し、サイドワンダー準公爵が一言。


「そうか、その方が、報告にあった……」


 しかし、サイドワンダー準公爵の話しの途中、急に窓ガラスが割れ、複数の人影が部屋へと飛び込んでくる。


 それを追うようにして、割れた窓の部分から血吸いコウモリ達達も雪崩れ込む。

 ディガーとディアナもそれを見て、スコップを水平に寝かせて構えると、謎の人影達へと突っ込む。


 スッと私を庇う位置へ、ショウが移動。そのタイミングで、人影の一人が腕を振るう。腕の動きに合わせて、室内を爆風が駆け抜ける。


 ショウの背中越しに、サイドワンダー準公爵が、目の前の黒檀のテーブルをブンとばかりに動かし、盾にしてリスティアを爆風から守るのが見えた。


 そこまで見たところで襲いかかる爆風。ショウごと吹き飛ばされる私。熱というよりも、衝撃が全身を包む。


 そのまま、部屋の壁へと叩きつけられてしまう。


 衝撃で飛びかける意識。何とかポーションを取り出し、くわえる。


「おいおい、ケイオス。やりすぎじゃね? お姫さん、殺してないだろな」


 と、人影のうち、やせぎすでひょろりと背の高い方が言う。


「うるさい。だいたい、お前のミスの尻拭いをしてやってるんだ。黙ってろ、ヒョガン」と、爆風を放った肉付きのよい男。


「ヘイヘイ」と、ヒョガンと呼ばれた男は肩をすくめて答えた後、自らの痩せた体に、両手の指を勢いよく突き立てる。


 ぶちぶちと、肉が裂けるような音が響く。


 そして体から抜いたその手には、何故か無数の木片が握られている。その木片がむくむくと動き出す。

 膨らみ、徐々に人型を取り始める木片。やがてそれはヒョガンと同じくらいの背の高さのウッドゴーレムへと変わる。


 そこに、かぶさっていた瓦礫をはね除け、その勢いのままディガーが飛びかかる。

 ウッドゴーレムが一体、ディガーの突き出した切っ先を掴まみ、その攻撃を阻止する。パッとスコップを手放すディガー。空いた手のひらで、そのウッドゴーレムの体へ触れる。

 小さな魔法陣が、ディガーのその手を中心に発動。


 くるくると回る魔法陣。ウッドゴーレムの頭部から、キラキラしたものが魔法陣へ巻き取られていく。

 どうやらディガーは、ゴーレムの魔法回路に使われている金粉を分離したみたいだ。

 崩れ落ちるウッドゴーレム。


「お前っ、ゴブリンの癖に錬金術と土魔法の複合魔法だとっ! しかも、その魔法波動、覚えているぞ。お前かっ、お前なんだな! よくもよくもっ。俺のスイートなウッドゴーレム達を暴走させてファンタスティックな工房をむちゃくちゃにしやがったなっ!」と激昂した様子のヒョガン。


 その腹から、ミチミチミチミチと音が響きはじめる。ヒョガンのローブがぶわっと膨らむと、布を突き破り、飛び出す無数の木の枝。

 それがディガー目掛けて、襲いかかる。

 ポーションが漸く効いてきた私はとっさに飛び出し、スコップ(特性:吸魂)でディガーに襲いかかる木の枝を防ぐ。

 伝わる激しい衝撃。手が痺れる。


 しかし、何故かスコップに触れた枝が、さらさらと砂に変わる。

 そのまま、次々に襲いかかってくる木の枝。それでも、スコップに当たるそばから砂に変わるため、何とか、さばいていける。


「おい、回収した。いくぞ、急げっ」と、ケイオス。その肩には気を失っているリスティアが担がれていた。


「でもよ、こいつらが……」と腹から次々に木の枝を生やしながらごねるヒョガン。


「おいてくぞ」と低く囁くように言うケイオス。


 それを聞いて、やれやれと言った感じで枝を腹から切り離し、ヒョガンがケイオスに掴まる。


 次の瞬間、ケイオスの足から吹き出る爆風。そのまま彼らは、リスティアを連れ、窓からロケットのように飛び出していった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る