第49話 爆音とためらい

 激しい振動が来たかと思えば、爆発音が響く。


「門の方かっ」


 私は、その揺れによろめいてしまう。

 ムキムキ執事の髪の毛が、まるで針山のように逆立っている。彼から膨れ上がる殺気と筋肉。膨張した筋肉で、執事服が破れ、飛び散る。

 剛毛に覆われた上半身があらわになる。


「お客人がたっ、失礼致します!」


 と、吠えるように叫ぶと、両手を床につける勢いで、室内から飛び出していく彼。どうやらムキムキ執事君は爆発音がした門の方に向かったらしい。


「いててっ」


 揺れで倒れ込んでいたガーリット達がそこでようやく起き上がる。


 私も急いでスマホのユニット編成からディガー達を召喚し、スコップを装備する。

 窓を開け放つと、血吸いコウモリ達を解き放ち、偵察をお願いする。


「まさか、準公爵家に直接殴り込んできたっていうの……」と、弓兵のリンダ。


「ああ、こんなぶっ飛んだことするのは例の錬金術師の奴らぐらいだろう。俺たちも門に向かうぞ」とガーリット。酒でうっすら赤くなりながらも、手早く装備を整え出す黎明の嘶きのメンバー達。


「クウはどうする?」とガーリットはディガー達を見ながら。


 非常時とは言え、多分、ゴブリンやら血吸いコウモリが貴族の屋敷をうろうろするのはおすすめ出来ないと、その顔に書いてある。


「今、偵察を出している。戻ったら追いかけるよ。先に向かってて」と、私はガーリット達に先行することをすすめる。


「わかった! よし、皆いくぞっ!」


 ガーリットの掛け声とともに、走り出ていく黎明の嘶きのメンバー。


 血吸いコウモリが一匹戻って来ると、ディガーの伸ばした腕にぶら下がる。

 キーキーと報告を始める血吸いコウモリ。


 ウンウンとそれに頷いていたディガー。そしてこちらを向くと、ディガーは門ではなく、リスティアと準公爵家がいるであろう部屋の方向を指差した。


「っ、陽動ってことか!」


 一瞬悩む。ディガー達を一度送還して、ガーリット達を追うつもりだったのだが。

 しかし、血吸いコウモリ達の偵察は、これまでも十分成果を出している。

 焔の民の少女のやらかした事が不問にしてもらえそうなこのタイミングで、と思わず保身を考えてしまう。


 くいくいっとズボンを引っ張るディアナとショウ。それがまるで、助けに行かないのって言っているようで。


 思わず、私は自分の顔を両手でパンっと挟むように叩く。


「よし、行きますかっ。リスティアを助けるっ。血吸いコウモリ達は先行して。でも、自分たちの命を優先でっ」


 私の声にディガーの腕にぶら下がっていた血吸いコウモリが再び、飛び出す。外にいる他の血吸いコウモリ達に私の言葉を届けるために。それを見届ける前に、私も、ディガー達に続いて走り始めていた。




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