第48話 準公爵家

 よほどガチャ飯が美味しかったのか、はたまた、リスティアを筆頭に大食漢揃いだったのか。まさか追加で食料限定ガチャを回すはめになった真っ昼間の宴会。


 それから数時間後、いまだに苦しそうに腹を抱えているガーリット達とともに、今私たちは王都の準公爵家の屋敷にいた。

 ここの当主が、この国の外交の筆頭らしく。


 一応、他種族の王族のリスティアが、そのまま王城に行くのは色々不味いらしい。

 そこら辺の複雑な事情に、私はあまり興味も沸かず。実は道中、何故か嬉々として説明してくれた、黎明の嘶きの盾使いのガス。彼の話を、話し半分に聞き流していた。


 同じく黎明の嘶きの弓兵のリンダによれば、ガスは熱狂的な王党派で、貴族制とかにめちゃくちゃ詳しいとのこと。普段無口なのに、こう言う時だけペラペラと煩いと、愚痴っていた。


 まあ、そんなこんなで、通された準公爵家の屋敷の一室。

 今も目をキラキラさせて、直立不動のまま室内を目をキョロキョロさせて観察している、ガス。

(あれは、貴族マニア、みたいなものなのかな)


 と、私も黎明の嘶きのメンバーと並んで立ちながら、そんなガスの様子を見てぼんやりしていた。

 目の前にはリスティアだけが椅子に腰掛け、誰か来るのを待っている。


(そういや、今日の投稿まだしてないなー。暇だし、部屋の様子でも写メっとくかな。いや、さすがにそれだけじゃあんまり面白くないか……)


 スマホを取り出し、そんなことを考えていると、がちゃりと扉の開く音。

 そちらを見ると執事服のイケメンが。しかもムキムキ。その大胸筋で、執事服が逆三角形に膨らんでいるのがわかるぐらい。そして、極めつけは頭の上の獣耳。


「ら、ライオン耳のムキムキイケメン、だとっ」


 思わず漏れた独り言。こんな美味しいネタはないとばかりに、速攻で写メ&投稿。そして、ガーリットから大人しくしてろとばかりに軽い肘打ちが入る。


 不思議そうにこちらを見てくるイケメン執事に、軽く俯いておく。

 すぐにイケメン執事はリスティアに向いて話しかけている。


「ただいま主人が参ります」


 そして響くノックの音。どうやらムキムキ執事は先触れだったらしい。

 扉が開き、人族の初老の男性が入ってきた。


 一斉にその場で膝をつくガーリット達。

 一瞬遅れて、空気を読んだ私も真似をしてみる。


 リスティアは立ち上がって何やら挨拶のような動作をしている感じだ。膝をついた私からはよく見えないが。


「リスティア姫よ。此度のことは誠に災難じゃったの。皆のもの、立ちなさい」と初老の男性。


 どうやらそれは退出の合図だったらしい。立ち上がって部屋を出ていくガーリット達に遅れないように、私もついていく。

 先導するのは例のムキムキ執事。


 部屋を出たところでこっそり近くにいたガスに聞いてみる。


「ガス、さっきの人って?」


 ビックリしたように目を見開き、しかし瞳をキラキラさせて小声早口で話し出すガス。


「準公爵のテレミゼ=サンドワンダー本人! 現国王の従兄弟! 皆、跪礼をしてただろう!」


「ふーん。で、立ち上がってってのが退出の合図だったの?」


「当然っ! 準王族の前で立つのは退出するときだけだ」


 確かに普段より饒舌かもな……と思いながら歩き続ける。

 そのまま控え室のような場所に通された私たち。


 その部屋には、軽食と葡萄酒っぽいお酒まで用意されていた。

 早速酒を飲み始めるガーリット達。


 寛いだ雰囲気の彼らに聞いてみる。


「護衛が離れちゃっていいの?」


「何言ってるだ、ちゃんとここまで送り届けただろう。これで依頼完了だ」


「あれ? 王城までじゃなかったっけ?」


「俺たちみたいなのが入れるわけないだろ、クウ。後はサイドワンダー準公爵にお任せだよ。これだけ飲んだら帰れってことさ」


 そういって酒を傾けるガーリット。

 その時だった、部屋の隅で控えていたムキムキライオン執事が、ばっと立ち上がる。そのケモミミが何かを感知したのか、激しく動いていた。



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