第104話 霊峰の終わり

 よたよたとキミマロから降りる私。

 回転のしすぎで、足元がおぼつかない。


 キミマロから降りてみれば、カルファルファさんや他の魔女達の姿もある。

 そのまわりには緊張した様子のショウやディアナの姿も。


「よかった、合流出来たんですね。皆、無事に……? ディガーは?」と私は姿の見えないディガーを探すように見回す。


 その時だった、別の通路からディガーがひょっこりと顔を出す。そのすぐ後ろには、ジョナマリアさんのいとこの、スニタスの姿も。

 ワッと沸く魔女達。無事を喜ぶようにスニタスを取り囲む。


 私はとことこと近づいてきたディガーに声をかける。


「ディガー、それにディアナとショウも。皆を守ってくれてありがとうね。素晴らしい働きだよ」


 私の労いを聞いて、にやっと笑い、サムズアップするディガーに、私もサムズアップしかえしておく。


「クウさん」とそこへ近づいてくるジョナマリア。

 その姿からは疲れた様子がうかがえるが、それでもジョナマリアさんの美しさは損なわれておらず。こんなときでさえ、私は見惚れてしまう。

 そのせいか、キミマロの甲高い鳴き声が響くまで、異変に気がつくのが遅れてしまう。

 室内に響く、キミマロの鳴き声。明らかに警戒を促す、切羽詰まったそれ。

 私は叫びながら、とっさに目の前のジョナマリアさんを抱えて伏せる。


「伏せっ────」


 次の瞬間、私たちのいる洞窟の天井ごと、霊峰サマルンドの頂きが消し飛ぶ。ジョナマリアさんに覆い被さるようにしていた私の視界のすみを、二体の竜に似た何かが通りすぎていく。

 天井を灰塵と、粉塵に変えながら。


 一体は赫赫かくかくたる白炎の閃光。

 一体は深淵たる漆黒の汚濁。


 焔の民の少女の喚んだ溶岩の竜。いつの間にか、その温度が更に上昇したようだ。惑星の中心温度と見紛うばかりの輝きを放つ溶岩竜。

 そして、それに対抗するかのように異界の魔王が喚んだのだろう、闇で出来た竜もまた見える。


 その二体が絡み合い、互いに食らいつくようにして、私たちの頭上で暴れまわっている。

 どうやらその余波で、霊峰の頂きは吹き飛んでしまったらしい。運が良かいことに、私たちのいる場所はからくも無事だった。頂きを構成していた土砂や岩も、その全てが塵芥と化したのか、私たちは生き埋めになるのを免れた。


 そして今、ただただ二体の竜の争いを眺めるばかりの私たち。その目の前で、異変が起こる。



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