第87話 サンクルス

 洞窟の入り口の前は広場のように平らになっている。

 私はユピテル達を引き連れ、広場に降り立つ。


「ジョナマリアっ」


 洞窟の入り口から駆け寄ってくる女性。どこかジョナマリアさんと似た感じの三十台くらいの女性だ。錫杖のような物を両手に持っている。


「カルファ姉さん! 良かった無事だったのね──」と、ジョナマリアもカルファと呼んだ女性に駆け寄ると抱きつく。


「ジョナマリアも本当に良く無事で。霊峰登るとき、ハイヌには襲われなかった?」


 と、抱擁を解き、ジョナマリアの全身を確認し始めるカルファ。

 その途中で、カルファの左腕に巻かれた包帯に滲む血に気がつくジョナマリア。


「カルファ姉さん、怪我してるじゃない!」


「大源泉が急に停止したと思ったらさ。周囲のモンスター、急に狂暴になってしまったの。今、ハイヌも地上まで襲うようになっているのよ」


「だから武装していたのね……」


 私はあの錫杖っぽいのは武器なのかと、思いながらリザルト画面からポーションを取り出すと、そっとジョナマリアに差し出す。


「それにしても良くもまあこんなに早く駆けつけられたわね。そちらの方が? 紹介して頂戴、ジョナマリア」


 私は急に二人から注目され、ポーションを差し出した姿勢でピクッと固まる。


「クウさん、ありがとう。紹介するわね。こちらは私の姉で、カルファルファ=サンクルス。カルファ姉さん、こちらはクウさん。ここまで連れてきてくれたの」


「カルファと呼んでくれ。まさかジョナマリアが男を連れてくるとはな。甘えん坊で泣き虫な奴だが、よろしくな」


「もう、そんなんじゃないもん! さあ、カルファ姉さん、これをかけるわよっ。腕出して!」


 そういうと、カルファルファの腕をぐいっと引っ張る。しかし包帯を解く手つきは優しげだ。

 露になるカルファルファの傷。

 ハイヌの牙によるものだろうか。裂傷が見える。

 すぐさまポーションを振りかけるジョナマリア。


 傷が光ると、あっという間に塞がる。

 ──ポーションも、一番良い奴はすごいな


「なっ、これは! ジョナマリア!」


「まさかそんな……。クウさん、ごめんなさい、こんな貴重な物だと思わなくて」


「えっ?」と首をかしげる私。


 ──あっ、そういえばリザラが即時回復するポーションは伝説級とか言っていたような……。すっかり忘れていた。どうしよう、この場。


 私は二人の様子をこっそり伺う。

 ──よすぎるものを使って勿体なかった感じかな?


「いやー。気にしないで下さい。まだあるんで」


 私の台詞に、何故か頭に手をあて首を振るカルファルファ。


「クウさん、お代は後で必ず払います」とジョナマリア。


「お代なんていいですって! 私が勝手に出したものなので」


「そういうわけには……」と困った様子のジョナマリアと、心配そうにそんなジョナマリアを見つめるカルファルファ。どうやらかなりの高額を考えているのが伝わってくる。


 私は重くなってしまった雰囲気、そして自分のせいで生じてしまったジョナマリアさんの困り顔を何とかしようと必死に頭を巡らせた。

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