第99話 フロンタークの実力
「あららー。せっかく色々画策して守りの固いシュバルツの庇護から巫女を引き離したのに、簡単にはいきませんねー」と余裕の表情を崩さないフロンターク。
その首めがけて、巨大化したショウの斬馬鋏が迫る。
斬馬鋏の刃が、フロンタークの首を捉え、裁ち切る。
「ざーんねんー」と首と体が分離したフロンタークの体が煙にかわり、霧散する。
どうやら、体が煙と入れ替わっていたようだ。
霧散した煙の数歩後ろに、フロンタークの姿がある。
斬馬鋏を振り切り、無防備なショウ目掛け、フロンタークの手が迫る。
ガシッと鷲掴みにされるショウの顔面。
フロンタークの手のひらから、黄土色の煙が噴出。ショウの顔を覆い尽くす。
「ショウ!?」と私は心配して呼び掛ける。
「──顕在せよ、源泉の光よ。マナ・ボルト」と俺の背後で何やら唱えていたカルファルファが手にした魔法の杖をフロンタークへ向ける。杖の先から、矢の形になった源泉の光が発射。
フロンタークへ迫る。
ショウの顔を離すフロンターク。
自由になったショウが斬馬鋏を一振り。フロンタークへと迫っていたマナ・ボルトを切り裂く。
「え、なんで?」と混乱する私。
「クウさん! さっきの黄土色の煙よ! 操られてるのよ」と杖を構えたままのカルファルファ。
ギクシャクとした動きで私たちの方へと歩き出すショウ。その手のなかな斬馬鋏が大きくなったり小さくなったりと、安定しない様子。
「あらら。抵抗激しいですねー」とフロンターク。
「血吸いコウモリ達、ショウを! 時間稼ぎでいいから!」と私は周囲を旋回していた血吸いコウモリ達へ告げる。
バタバタとショウの周りを旋回し始める血吸いコウモリ達。巨大化した斬馬鋏が届かないギリギリの距離でショウの意識を引き付けるように飛び回っている。
「私もショウさんの方を! もしかしたら何とか出来るかもしれない」
「わかりました、よろしくお願いいたします、カルファルファさん」
「クウさんも気をつけて! 近づくとさっきの煙の餌食よ」
私は無言で頷くと、手にした吸魂のスコップを握りしめる。
フロンタークは何やら余裕の表情で手をひらひらしている。
──さて、どうしよう。ユピテル達はクールタイムで召喚出来ない。ショウと血吸いコウモリ達は戦闘中。
私はちらっと大源泉のある方の床を見下ろす。
──ディガーとディアナはやや、劣勢、か。少しずつ、ジョナマリアさんの方へおされている。時間はあまり無い、と。となるとあとは焔の民の少女かキミマロを召喚するか、メタモルフォーゼか、だな。ただ、どちらも手の内はバレているだろうな。とすると対策ばっちりでのあの余裕、ということも。
私は再びフロンタークの表情を伺う。
俺は目を離さないように気を付けながら、スマホを取り出す。
ちらっとガチャを見る。いいねが、貯まっていた。
ユニット限定プレミアムガチャが回せるだけの、いいねが。
ガチャという名の冠した強制異世界召喚をしてしまう、ユニット限定プレミアムガチャ。
誘拐と謗られても仕方の無い、それ。
知らなければ、少なくとも自分自身には知らなかったからと言い訳が出来た。
しかし、今は、知ってしまっている。誘拐まがいだと。
そして今まさに、選択肢を提示され、選択を迫られてしまった。
対策されている可能性の高い手持ちの手札で、フロンタークと対峙してみるか。
それとも強力な存在を誘拐してくるかの、選択を。
「ああ、カルファルファさんの動画、バズったんだ」そんな事を呟きながら。
私は震える指でスマホをタッチした。
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