第39話 治療師リザラ

「ああ、すいません、自己紹介もせず。私は治療師ギルド所属のリザラと言います。」


「あ、はい。あの、手を……」と私は握られたままブンブン振られている自分の手に視線を落とす。


「これは、すいませんっ!」とばっと手を離すと、コホンと照れ隠しに咳をするふりをするリザラ。


「ええと、それで何かご用ですか?」


「はいっ、そうなんです。一体、クウさんはどうやってあんな高価なポーションをあれほど大量に用意されたんですか? あれほどの効果の高い魔法薬、王都の一級錬金術師でもなければ作れない代物です!」と熱弁するリザラ。


(あれ、渡しといたのって、ただのレア度コモンの下級ポーションだよね? 魔法薬だなんて大袈裟な。確かに傷は直るだろうけど、じわじわ回復していくだけだし、そんなに凄いものだった?)


「えっと、そんなに高価なものなの? 回復するって言っても、あのポーションじゃあ、瞬時に治る訳じゃないし」


「何言ってるんですか! そんな即時回復するポーションって、伝説級ですよ。今じゃ作れる人なんていませんっ! それこそ、太古から生き続けている古代龍の宝物庫とかにあるかどうかって品物じゃあないですか!」


「あ、ああ。そうなんだ。いやー。実は最近街に来たばかりで常識に疎くて」と、私は肩掛けカバンにまだ残っているレア度アンコモンの、普通のポーションをこっそり確認しながら答える。


(あれ、さっき使ったこの普通のポーション、実はすごいものなのか? というか、普通に人前で使っちゃったんだけど。明らかに火傷が目の前で治っていくのを見られてたよね)


 私は背中に冷や汗が流れるのを感じつつ、リザラに確認してみる。


「そういえば、城壁の方で何があったか聞いてる?」


「それが、聞こえてくる話が支離滅裂で……。炎の化け物が全てを焼き払ったとか。地上に太陽が生まれたとか。少女の姿をした神が降臨したとか。皆さん口々に訳のわからないことを言うんですよね。まあそれはいいんです。戦場で気分が高揚するとよくあることなので! でも、かなりの被害は出たみたいで、どうやら熱傷系の重症者が多いようなんです」そこで少し言いよどむリザラ。


「それで厚かましいお願いなんですが、もしまだクウさんがポーションをお持ちでしたら譲っていただけないかと……。もちろん代金はお支払いしますので!」


 とお祈りするようなポーズに上目遣いでこちらを見上げてくるリザラ。

 あざとさが全然隠せていない様子から、不馴れなことを必死にやっている事がかいまみえて、逆に微笑ましい。

 しかも、熱傷の原因が自分のガチャにあるのが、罪悪感を掻き立てられる。


「勿論いいですよ。ただ、人目につかない場所でもいいですか? スキルに関わることなので……」とためしに言ってみる。


「良かった! ちょうど近くに治療師ギルドがあります! こっちですっ」


 と、リザラは私の手を取ると、急ぎ足で歩き出す。リザラの視線が外れた隙にこっそりスマホを取り出すと、いいねの数を確認する。


(あれ、思ったよりも少ないぞ。安請け合いしたの、まずったか……)


 スマホ画面に表示されていたのは、217いいねだった。

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