第78話 襲撃

 そろそろ高度を下げようかとキミマロに指示を出そうとした時だった。

「きゅっ!」キミマロが短く強めに鳴いたかと思うと、一気に降下し始める。


「きゃあっ」ジョナマリアさんの悲鳴。キミマロの体から浮かび上がりそうになる彼女の体をとっさに後ろから覆い被さるようにしておさえる。

 伝わる体温に内心激しくドギマギしながら、ばっと後ろを振り返る。

 ちょうど一瞬前まで私たちがいた場所を通りすぎる、大きな影。


「グリフォンっ?!」


 ちらりと見えたそれは、四つ足に翼を持つ獣。前の世界でファンタジーで出てくるグリフォンによく似ていた。


「クウさん、また来ます!」


 ジョナマリアの視線の先には、もう一匹。こちらを目指して突っ込んでくる。

 正面から見るとその顔は犬か狼に似ている。


 キミマロが犬顔グリフォンに頭部を向ける。


 私は咄嗟にジョナマリアさんをそれまで以上にしっかりと支える。次の瞬間、キミマロが横にロールしながら頭部から超音波を放つ。

 回転し地面が頭上を通りすぎる視界の中、キミマロの超音波を浴びた犬顔の目と耳から、血らしき体液が噴き出す。

 ふらふらと体制を崩す犬顔グリフォン。

 すり抜けるようにその脇を通りすぎるキミマロ。

「でかっ」思わず漏れる私の呟き。キミマロも軽自動車程度の大きさはあれど、それよりも二まわりは大きい犬顔グリフォン。


 しかしその巨体もキミマロの高威力の超音波を浴びて、朦朧とした様子。通りすぎ様に、開かれたキミマロの口。その牙が犬顔グリフォンの首筋を切り裂く。

 空中に真っ赤な噴水が上がる。


「浅いか!」


 大量の出血をしながらも、よろよろと逃げていく犬顔グリフォン。そこへ、最初の犬顔グリフォンも戻ってくる。

 再び急降下しかわすキミマロ。

 私の腕の中で振り回されるジョナマリアさん。

 そこへ、さらに山頂から数体の犬顔グリフォンがこちらに向かってくるのが見える。


「キミマロ! いったん撤退で!」


 私は戦略的撤退を指示する。

 サマルンドから離れる方向に急降下していくキミマロ。

 ある程度下降したところで、急に犬顔グリフォン達の追撃がやむ。

 そのまま、樹木の影に着地すると、緊急事態だからとジョナマリアさんを抱えてキミマロから飛び降りる。

 私たちという重りの無くなったキミマロが戦意揚々と上空を見回している。

 私からの攻撃の指示を待っている雰囲気がひしひしと伝わってくる。

「キミマロ、まてっ」


 大人しく伏せるキミマロ。

 私も上空を見回すが、犬顔グリフォン達の姿は見えない。


「あの。下ろして貰えます? あのモンスターは、多分地上までは降りてこないと……」と、私の腕の中からジョナマリアさんが話しかけてきた。


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