第31話 地下水道の底で

 ぴちょん。

 ぴちょん。


 私とディガー達の足音が水の立てる音に消されていく。

 私は冒険者ギルドで聞いたリスティアの話を思い出していた。


 リスティアの話によると、牙狩族の集落にいた時に襲われ、拐われたそうな。気がつけば地下の研究施設のような場所。ただ、そこではウッドゴーレムの動く姿しか見かけず、半透明の筒の中に閉じ込められていた。その何かの溶液の中で、腕に管を刺され血を抜かれていたらしい。


(リスティアの血が目的、だったのかな?)


 ディガーの合図に我にかえる。分かれ道だ。

 私はリスティアが書いてくれたメモに視線を落とす。


「ここは、左だね」


 サムズアッブして応えるディガー。

 そのまま進む。

 その後も何度か分かれ道を過ぎた頃、壊れた扉が見えてくる。

 近づき、そっと中を覗く。


「誰もいないな。ここがリスティアが囚われていた所か」


 リスティアによると、ある時突然、ゴーレム達がおかしくなったんだと。たまたまそのうちの一体がリスティアの入った筒に衝突し、壊れたおかげで、無事に脱出できたらしい。


 私は扉を越えてゆっくりと部屋に入る。確かに中央に割れたガラスっぽい筒が一つある。そして辺りには壊れたウッドゴーレムが数体。


 そのゴーレムを脱出したリスティアが調べた所、魔導回路が変質しているのを見つけたと言っていた。

 何でも魔導回路は、術者の血と砂金を混ぜたもので書き、エント系の魔物の樹液でコーティングしたものなんだと。で、暴走したゴーレムの魔導回路は、砂金が見当たらなかったらしい。


 ……不思議なこともあるね。

 その話を一緒に聞いていたディガーは、そっと目をそらしていた。


 実際に私も壊れたウッドゴーレムに近づいてみる。その額らしき所に、確かに何か書かれているのが見える。そうと言われて見れば、その何かが黒ずんで滲んでしまっているのが、素人目にも分かる。


 それで、そこまで分析したリスティアは、壊れかけのウッドゴーレムの魔導回路に魔力を流し上書きし、操ることに成功。何とか外まで自分を運ばせたらしい。しかし、外に出た所でゴーレムが崩壊、その下敷きになると。

 そこを私が見つけたというわけです。


 でだ、大切なのは、今回のスタンピードの原因は、この研究施設のどこかあるかもしれない、というのが、リスティアとガッソの意見。

 どうも、リスティアの話によればエントを培養してそれを素体にこのウッドゴーレムを作っていたふしがあるそうで。その過程で、エント達を呼び寄せるような、なにかが出来たのかもしれないとのこと。

 それを探すのが、指名依頼の内容だった。


 私には、なかなかに難しそうな依頼だったし、何故私なのかと聞くと、リスティアの信じる神様の御宣託とのこと。

 これだから神様のいる世界は……

 せめてもの対価にと、報酬の一部先払いとしてリスティアの話す姿を動画に撮れたのは良かったけど……。


 そんな話しをしたのを思い出しながら、私とディガー達皆で部屋を探索する。

 しかし、それらしき物は見つからない。まあ、ここにあれば当然リスティアが気がついていたはずだ。


「やっぱりさらに地下に潜るしかないか……」


 リスティアが脱出した扉とは逆側にある、下に向かう通路を見ながら、私は呟いた。

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