第18話 薬草採取

 私は今、薬草採取に来ている。

 ひとまずこれだけは言いたい。


 採取地が、遠すぎるっ!


 駆け足スキルを最大限いかして走りに走り、ようやく薬草が生えている場所まできた。

 受付のおっちゃんに場所の概要だけ聞いていたのだが、宿の人に改めて聞いたら何故か残念な人をみる目をされて、教えてもらった採取場所。

 その時に、だいぶ遠いよーと言われたのだか、ここまで遠いとは。しかも草原のど真ん中に点々とある群生地帯らしく。

 ちゃんと宿の人が教えてくれたから良いものの、じゃなかったら、絶対迷ってた。

 朝一で出たのに、着いただけでもうお昼ご飯の時間だ。私はとりあえず肩掛けカバンから持ってきていた堅焼きパンを取り出してかじる。


 うーん。歯応えは抜群だ。


 さて、お腹は脹れたので、早速ユニット召喚で、ディガー達と血吸コウモリも皆呼び出す。


 魔法陣が展開され、出てくるディガー達。

 わらわらと集まってくると、私の前に整列する。

 ちょっとほのぼのするが、時間がないことを思い出して、早速木片のメモにかかれた薬草の特徴を伝え、探すのを手伝うのをお願いしてみた。


 うんうんと頷きながら聞いていたディガー達。私の話が終わると、今度はディアナを中心にして、彼らだけで何か話し合っている。

 ディアナの号令で四方に散っていく血吸コウモリたち。

 すぐに一匹が戻って来る。そしてすぐにショウとディガーを引き連れ、とんぼ返りする血吸コウモリ。


 しばらくしてショウが慎重に根っこから土つきのまま採取した薬草を一株持ってくる。


「おお、ありがとう! これが薬草なのか。確かにメモにかかれた特徴と合致する。血吸コウモリが探してショウが採ってくれたんだね」


 私はよしよしとショウの頭を撫で、血吸コウモリの顎の下をこちょこちょする。


 その間に、一心に薬草に鼻を近づけているディガー。


「ディガーは何をしてるの?」


 私が不審に思って尋ねると、自分の鼻を指差し、そのあと四つん這いになって地面の臭いを嗅ぎ始めるディガー。そのままクンクンと辺りの臭いを嗅ぎ始める。


「あ、もしかして嗅覚補正(小)のスキルで臭いで探してくれているのか!」


 私が納得している間に、ディアナも別の戻ってきた血吸コウモリに連れられ、新しく一株薬草を採ってきてくれた。

 ショウほどではないが、ちゃんと根から採取されたそれを受け取り、ディアナとその血吸コウモリも撫でて労う。


 そうしてショウとディアナが交互に血吸コウモリが見つけてくれた薬草を持ってきてくれる。


 私も何度が血吸コウモリの見つけてくれた薬草を採取してみるが、やってみるとこれがなかなか難しい。スコップ(吸魂)が採取するには大きくて、どうしても根が切れてしまったりとショウとディアナほどの綺麗さでの採取が出来ずにいた。


(これは皆がいてくれたお陰だな。私一人じゃ全然見つけられないし、採取も綺麗に出来ないや)


 そんななか、未だに何も見つけられていないディガー。

 しかし、そんなディガーが、急にハッとした表情をしたかと思えば、何か大きな声をあげる。

 何となく警戒を誘うその声に、私も身構える。

 すぐに戻ってくるショウとディアナ、そして血吸コウモリたち。


 私は皆が揃ったのを確認するとディガーにどうしたのか尋ねてみる。


 ディガーは、私たちがこれまで採取した薬草を指差し、ついで大きく背伸びをしたあと、手を広げながら下ろす。そして街とは反対の方向を指差した。


「ええと、薬草、大きい、あっちってことか」


 何故か一瞬難しい顔をしたあと、指で三角を作るディガー。


「あれっ。なんか違ったか。えっと、あっちには行くべき?」


 私が街とは反対側、さっきディガーが指差した方を示して尋ねる。


 するとうんうんと頷きながら、何故かシーっという人差し指を口に当てるジェスチャーをするディガー。


 私はそのジェスチャーをみて、静かにするのかと理解する。そして私達はできるだけ音を立てないように気をつけて、ディガーの示した方に移動してみる。


 しばらく進むと、風もないのに、わさわさという葉擦れの音がしてくる。

 そしてある藪でディガーがしゃがむようにジェスチャーしてくるので、私とディガーはその藪でしゃがみこむ。

 ショウとディアナ、血吸コウモリたちは後方で待機している。


 そのまましばらく藪の裏に隠れているとどんどん葉擦れの音が大きくなっていく。

 どこから音がするのかと、そっと覗く。

 ちょうど大きな木が、もぞもぞ根を蛇のようにくねらせながら、目の前を移動していた。

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