第110話 エピローグ

「フロンタークの調査は終わったかの?」とシュバルツは机の前に立つガッソに問い掛ける。


「だいたい洗えました。錬金術を与えられたのは五年前とみて、間違いないでしょう」と、手元の書類を見ながら答えるガッソ。書類を覗きこむ額に刻まれたシワが、深い。


「五年か、ちょうどジョナマリアを当ギルドで預かり始めた時分じゃの」と、安堵とも取れる表情のシュバルツ。


「はい、敵の第一目標は最初から彼女だったのでしょう。リスティア姫の方は……」


「予備の作戦対象だったと。どうやら失敗したようだしの。それで他のスタッフへの思想汚染はみられたかの」


「いえ、現状全くありません。フロンタークは秘密保持を優先したのかと」


「ふむ……。そちらは水面下で調査を続けてくれ」


「っ! わかりました」と顔に表情が漏れてしまうガッソ。


「前回のスタンピードの誘発。街の地下に研究室を用意したのはフロンタークだったのは確定かの。そしてその混乱に乗じたジョナマリアの略取を狙っていたのはわかるとして……」と後ろ足で顔をかくシュバルツ。


「はい、スタンピードのスピード解決で結局失敗したようですね」とガッソ。


「準公爵への襲撃の方はどうなのじゃ?」


「そちらはフロンタークは関与していない可能性があります。仲間の錬金術師の暴走かと」


「ふむ、そして今回の大源泉の騒ぎを起こす、と」


「はい、そちらは完全にフロンタークの仕込みだったようです。現在詳細な手法を調査しておりますが、見たことのない魔法陣が多数あり……」


「ふむ、それも提供された物、というやつかの。何にしても、英雄殿、様様じゃな。彼が居なければ、果たしてどうなっていたことやら」


「ええ、最初は常識のない怪しい人物とばかり思っていたのですが、彼が居なければ人的な被害は甚大だったのは間違いないでしょうね。何人もの重要人物が彼に救われています」


「全くの。まあ、それ以外の影響は逆に英雄殿の影響で甚大だがの」


「……やはり、来ましたか。どこの国からの横やりですか?」と普段のガッソからは似つかわしくない不安そうな表情。


「ほぼすべて、じゃな。いやはや世界中から注目の的のようじゃの。ところで件の英雄殿は未だ霊峰かの?」


「はい、報告では足の負傷で治療中とのこと。ただ、近日中には動きがあるやもしれません」


「ふむ。今後も目を離さないようにな」


「わかりました。それでは私はこれで」と退出するガッソ。


 ガッソの退出を見送ったシュバルツは軽く跳躍し執務机へと飛び乗る。背後にある窓からドォアテアルの街を見下ろすと、誰ともなく呟く。


「クウよ、お主は次にどんな変化をこの世界にもたらすのかの。お主の行く先に、幸、あらんことを」



 ──完──

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