第89話 ハイヌクイーン
傷一つないハイヌクイーン。
その姿を唖然と見つめるカルファルファ。しかしすぐに、下ろしていた錫杖を力一杯握りしめ、声を張り上げる。
「っ! 何としてもここは抑える。ジョナマリア、早く奥へ! クウさんを連れて──」
私はスマホをしまうと立ち上がる。
そして、近くに降りてきていたビノへ声をかける。
「ピノ、あれはいける?」
「簡単」
それだけ答えると、上空へと舞い上がるピノ。
その回りに他のユピテル達も集まってくる。
どうやら私の、ハイヌクイーンの討伐の意思を伝えてくれたようだ。すぐに散会するユピテル達。
「クウさん! ジョナマリア! 何をしているの、早く!」
とジョナマリアを洞窟の方へ押し出そうとするカルファルファ。
そんなカルファルファにジョナマリアが応える。
「カルファ姉さん、大丈夫よ」
「大丈夫って何を言って──」
「ほら」と上空を指差すジョナマリア。
ばっと振り向き仰ぎ見るカルファルファ。
それはちょうどエンプとおぼしきユピテルともう二人、計三人の腕から伸びた血塗れの鎖がハイヌクイーンに絡み付いたところ。
ハイヌクイーンは無造作に体をひねり、鎖ごとユピテル達を払いのけようとする。
ユピテル達の翼が、光り輝く。
それは魔法陣の輝き。
無数の細かい魔法陣がまるで楔のような形を作る。その楔は、自身の翼を空間に打ち付けるように固定される。
ハイヌクイーンの動きが止まる。
その巨体が、たった三本の鎖で固定されてしまう。
力の限り、足掻き始めるハイヌクイーン。
一層の輝きを示す、エンプ達の翼の魔法陣。空間に磔になったかに見えるその姿は、何故か神々しい。
ハイヌクイーンの身動きは、エンプ達によってすべて無駄に終わる。
身動きを封じられたハイヌクイーンの正面。
翼を広げ、そこに現れたパルマ。
抑えきれない笑みが哄笑となってその口から漏れている。これから始まる事が、よほど楽しいのか。
パルマの鎖が、自身の剣へと巻き付いていく。
ぐるぐるぐるぐるとどんどん巻き付く鎖。どこから現れたのかというぐらい、止めどなく鎖が伸び、巻き付き続ける。
剣だったそれは、あっという間に鎖のこん棒へと姿を変える。
それでも止まらない鎖。
鎖のこん棒の長さが、パルマの身長に達し。
それでも止まらずに肥大化し続ける鎖。
気がつけば、ハイヌクイーンと変わらぬ長さになっていた。巨木のような太さのあるそれを、パルマは振りかぶる。
それだけで巻き起こる豪風。
身動きの取れないハイヌクイーンはしかしその巨木と化した鎖のこん棒から一切目を離さない。
一際甲高い哄笑と共に、パルマがそれを横薙ぎにする。
一薙ぎ。
たった一薙ぎで、ハイヌクイーンの上半身は爆散した。
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