第106話 ver.2.02

 私はスマホの画面をスクロールする。


『以下のアプリのアップグレードが完了しました。


 ユニット装備 → ユニット装備ver.2.02


 それに伴い、機能が拡張されます。


【装備ユニット数の増加】

 1体 → 2体』


「装備ユニット数の増加……?」


 私がスマホを見ながらポツリと呟いた時だった、いつくかの事が同時に起きる。

 辺りに満ちていた大源泉の光が薄くなって行く。はっと顔をあげると、空中に浮いていたジョナマリアさんを覆う光も薄くなっていく。とっさに私は立ち上がると、駆け出す。

 光が消えたことでジョナマリアさんの体が再び重力の影響を受けるようになったのか、落下をはじめる。

 最初はゆっくりと。しかしすぐに加速して。

 何とか滑り込むようにして、私はその落下点へ。尻餅をつきながらも、ギリギリ落下してきたジョナマリアさんの下へ。


「ぐぅぅっ!」


 私は自らの体をクッションにして無事にジョナマリアさんを受け止める。ここで、『お』から始まるセリフが出なかった自分を褒め称えたい。


 その同じタイミングで、焔の民の少女も空から落ちてくる。私たちがいる、平らに削られた霊峰の頂き、少し離れた所へ。

 その身にまとっていた白炎色の溶岩の竜はすっかりバラバラになって四散し、少女の体も所々真っ黒に染まっている。


 落下した所で、よろよろと立ち上がる焔の民の少女。

 煌々とした輝きもどこか色褪せ、判別しにくいがその炎で出来た体には傷を負っている様子。


 異界の魔王も、その身に纏っていた闇の竜を解き放ったようだ。しかし、闇の竜は消えず。

 そのまま異界の魔王に随伴するようにしてこうべを垂れている竜。その額に異界の魔王は右手をかけ、ゆっくりと私たちの方へと降りてくる。


 私の上で気絶しているジョナマリアさんを、ディガーとディアナが急ぎ回収してくれる。

 そのまま二人がかりでジョナマリアさんを担ぐと、異界の魔王から離れるように走り出すディガー達。他の魔女達もショウに随伴され、避難を始めている。

 私の一番の希望をいつも汲んでくれるディガー達に内心感謝しつつ。

 私は急ぎスマホを操作する。


 もう、目の前に来ている、あの焔の民の少女すら下した相手。

 私が異世界召喚してしまった存在。


 私は迷う気持ちを振り払いユニット装備アプリをタッチし、起動する。

 表示される画面。そこに並ぶ名前。


 ──────────

『   』『    』

 ・ディガー

 ・焔の民の少女

 ・キミマロ

 ・パルマ 

 ・ピノ 

 ・エンプ 

 ・ペナン

 ・ポルニ

 ・ソタピナ

 ・アープリー

 ▽実行


 ──────────


 ユピテル達の七名の名前はグレーアウトしていて、選択できない。

 私は焔の民の少女と、キミマロを選択する。

 空欄になっていた枠に表示される、選択した二名の名前。


 その時だった。

 異界の魔王が、山頂へと降り立った。

 その瞬間、異界の魔王の足元から一気に闇が広がり始める。

 その広がり方は、大源泉の床の時とは比較にならない速度で。

 私の立つ地面もあっという間に闇に呑まれてしまう。


 私の足元の闇から溢れだす無数の真っ黒な蟲たち。

 足に食い込む蟲たちの無数のおぞましい何か。

 私は駆け抜ける激痛に耐えながら、スマホ画面の「実行」ボタンをタッチした。

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