第71話 逆流
前回と同じように、ゆっくりとほぐれるように宝珠がバラバラになると、その粒子が手のひらからこぼれだす。
粒子は渦巻く七色の光となり、下へと落ちていく。そのまま、大地に吸い込まれていく、はずだった。
まるで、大地が受けとることを拒否するように、七色の光が逆流し、暴れだす。大気を満たす、ぴりぴりとしたものが、一気に強まる。
部屋の中心にいる私と魔女ジョナマリアを中心にして、バリバリと紫電の光が飛び交う。
宝玉だった粒子の一部が、私のスマホを経由して虚空へと消えていく。
空気を切り裂く紫電の光の一際大きな音。
魔女ジョナマリアの悲鳴。
弾き飛ばされる私達。それと同時に、部屋を飛び交っていたいた紫電の光が収まる。
僅かにジリジリとした音を残し、静寂がとって変わる。
「あいててて」私はゆっくりと起き上がる。なんだか頭痛がする。リザルト画面から取り出したポーションをあおると、スーと引いて行く頭痛。
倒れふしたままの魔女ジョナマリア。
私はふらふらと彼女に近づくと、声をかける。
「大丈夫ですか? ジョナマリアさん」
「ぅぅんっ」朦朧とした返事。
私はそっと魔女ジョナマリアの首の下に手を差し入れるとゆっくりと持ち上げる。頭が持ち上げられ僅かに開いた唇に、もう一つ取り出したポーションをゆっくりと注ぐ。
唇からこぼれたポーションが首筋を濡らすも、すぐに皮膚へと吸収されていく。
ポーションの残量が減るにしたがって顔色が戻っていく魔女ジョナマリア。
私がほっとしていると、どかどかと階段を降りてくる複数人の足音。
「なんだ、今の音は?!」
ガッソの声が響く。
「サンクルス! クウ、これはどういうことだっ!」と、ガッソの矛先が私へと向く。
「ガッソさん、私は大丈夫です。クウさんが噂のポーションを使って下さったので。ありがとう、クウさん」とジョナマリア。
「ああ、先のスタンピードの時のだな。しかし、何があったんだ。凄い音が上まで響いてきたぞ」
私が魔女ジョナマリアの方を向くと同時に、彼女もこちらを向く。思わず顔を見合わせる形になる私たち二人。
「それは……」と話しかけた私を遮るように話し出す魔女ジョナマリア。
「いつものように宝玉を捧げようとしていたんです。そしたらまるで源泉が宝玉を拒絶するように暴れだしてしまって。今朝から不安定だったんですが……」
「──どういうことだ? 源泉は今はどうなっている?」
「……今は完全に遮断されています」と、俯く魔女ジョナマリア。
「わかった、手を貸すからギルド長の所へ行くぞ。ここで話していても埒が明かない。クウ、お前もだからな」とギロっとこちらを睨むように見てくるガッソ。
「自分で歩けます」と言って立ち上がる魔女ジョナマリア。
しかし、立ち上がった瞬間、よろけてしまう。
思わず隣にいた私は、その二の腕をつかみ、支える。
「ありがとうございます」と微笑んでくれる魔女ジョナマリア。
「いえ……」
こんな時ではあるが、高まる胸の鼓動。
私は言葉少なに返事をするのが精一杯だった。
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