第70話 新たな異変

 冒険者ギルドの受付で、リスティアにサインをもらった依頼達成書の木片を提出する。

 ガーリット達、黎明の嘶きとの共同受注依頼だから私の依頼達成書だけでは手続き完了しないらしい。


「クウさん、黎明の嘶きの皆さんはどうされたんですか?」と、逆に受付の人にきかれる。


「用事があって別々に戻ってきたんですよ」と私は何でもない風を装って答える。


「そうですか。それでは、報酬の支払いは保留とさせて頂きます」


「仕方ないですね。わかりました」と私は肩をすくめる。ここでごねて目立っても薮蛇になりそうなのと、それよりも重要な用事があったのだ。


 私は意気揚々と階段を下る。段々と薄暗くなっていく周囲。


「スタンピード終わってから来るのは、初めてか……」と、私は呟く。


 実際の日数はそれほど経っていないはずなのだが、この階段を下るのも随分と昔に思える。

 それだけ濃い日々を過ごしたとも言えるし、大手を振るって会いに行ける待ち望んでいた機会でもあった。

 浮かれ気分だったが、そんな私でも気がつくぐらいに、雰囲気に違和感がある。

 ただ、明確に何があるとは言えないのだが、それでも強いて言えば、空気がピリピリしているような、静電気が帯電しているような不思議な緊張感が地下に降りてくるとある。


 そっと壁に指を伸ばす。

 やはりぴりっとする。


「なんだ、これ?」私は首をかしげつつ、進む。

 そして源泉のある部屋へと入る。

 そこにはいつものように魔女ジョナマリアの姿が。

 しかし、その表情は冴えない。


「クウさん、こんにちは。ご活躍、伺いましたよ」とこちらに気がつき挨拶をしてくれる魔女ジョナマリア。しかし、その表情はどこか虚ろだ。


「こんにちは! あの、何かありましたか? 心配事でも?」と私は魔女ジョナマリアの美しい顔に差す影に、思わず質問してしまう。


「いえ、それが……」と、言い淀む魔女ジョナマリア。


「あっ、すいません。不躾な事を……」と、私。


「いえ、いいんです。ただ、何がおかしいのか私にもわからないんです。どうも源泉の接続が不安定になっているみたいなんですが、こんなこと初めてで」


「それは……。そうだ、ちょうど宝玉を手に入れたんですよ。どうでしょう。試しに捧げてもよろしいですか?」と、私は当初の言い訳だったヒョガンから手にいれた宝玉を取り出す。


「ずいぶんと変わった形をしていますね。これは、複数の宝玉が融合しているのかしら」と、私から宝玉を受け取った魔女ジョナマリアは手のひらの上でそれを転がす。


「では、こちらを持って中央へ」と、魔女ジョナマリアは私をいざなう。


 そして、私は宝珠を両手に挟んで持つと、その手の外側から、魔女ジョナマリアが自分の手を添える。

 ひんやりとして、なめらかな魔女ジョナマリアの手のひらが、私の手を包み込む。


 そこに、ジョナマリアの顔が近づいてくる。


 ジョナマリアは片膝をつきながら、額を私の手につけると、その唇から言の葉が零れる。


『源泉管理官ジョナマリア=サンクルスの真名において請い願い奉る。時空間の狭間の遠き地に住まう、いと高き異界の主たる御方よ。ここに捧げし宝珠を受け取り、その恩寵を授け賜え……』


 その時だった。

 異変が、起こる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る