第40話 治療師ギルドにて

 そのまま、何も言う間もなく治療師ギルドに到着してしまう。


 状況が状況だけに、せわしなく行き来している人ばかり。しかし、何故か私たちが入っていくと皆一様に立ち止まりこちらを凝視してくる。

 通りすぎた後ろで何か囁きあっているのが漏れ聞こえてくる。


「あのリザラが男連れよ……」「氷結リザラについに春が……」「天変地異が起きるわけだ……」


 そういえば、手を繋がれたままだった。

 そのまま個室に通される。私はスキルを使うので、一人にしてほしい旨を伝える。


 知らない場所ではあるが、ようやく一人になりほっと一息つく。目の前にはテーブルと椅子が数脚。


「何の部屋だろ。まあ、いっか」


 部屋の外ではざわざわと音がしているが私の呟きは空気中へと消えていく。

 改めてスマホを取り出し、投稿アプリを確認する。


「あちゃー。なるほど、ね」


 私が先ほど投稿した焔の民の動画はあまりいいねが伸びていなかった。動画に投稿されているコメントを見てみる。


『さすがにこれは作り物だろ』『非現実感が拭えない』『CGの出来はまあまあじゃね』『こんなの僕の異世界じゃない』『いやいやお前のじゃないだろ。まあ、でも作り物にしろこれはやり過ぎだろ。異世界って言うよりSF?』


「これは投稿する動画間違えたなー。もっとそれっぽいのの方が受けるのか。どうしよ、取り敢えず、あるだけノーマルガチャを回してみるか。はたしてどれだけ下級ポーションが出るか……」


 ありったけのいいねで、ノーマルガチャを回す。


 ドキドキの瞬間。

 ガチャを回すのに、こんなに緊張したのはいつぶりだろう。

 現代にいた頃は課金の残高ばかり気にしていた気がする。

 こちらに来てからはただただ、夢中で、ガチャも何が出るか楽しみでしかなかった。


 緊張の一瞬。

 次々にカプセルの開くモーション動画がスマホ上で踊る。


 幸いなことに物欲センサーは作動しなかったのか、それなりの下級ポーションが当たる。


「ひい、ふう、み、23個か……。思ったほどではないけど、これだけあれば取り敢えずはいいかなー。さて、リザルト画面から出しておくか」


 スマホから取り出した下級ポーションを机に並べる。

 部屋を出てみると、少し離れた場所に佇むリザラの姿。

 うつむき加減で窓からの光を背景に浮き上がる姿。姿勢の良さを際立たせた立ち姿。

 声をかけようとして、その姿に、思わず私は口ごもってしまう。

 ドアの開いた音でこちらを振り向くリザラ。

 私の顔を見て、嬉しそうに駆け寄ってくるリザラ。


「あー。ポーション、机の上に置いておいたからっ!」


 私はそれだけ伝えると、呼び止めようとするリザラの気配を意識的にスルーして、治療師ギルドを飛び出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る