第93話 下降して
私は一つため息をつくと、そっとジョナマリアの手を取る。
相変わらずひんやりとしていて滑らかな手。
これから穴に落ちるのに感じていたのとは、別の意味で脈が速くなる。
繋いだ手をきゅっと握られ思わず、ピクッと反応してしまう。
「最初はしっかりと握っていないと危ないですよ?」と首を傾げ告げるジョナマリア。
「はい……」
「見本を見せるから、こっちを見てもらえるかな?」声音に笑いの気配が忍んでいるカルファルファの声。
変に緊張した私は、そんなからかう様子に気がつかず。言われた通り、穴の縁に立つカルファルファの方を向く。
「まず、こんなふうにらまっすぐ前に、飛び込む」
と、ピョンと穴に向かってジャンプするカルファルファ。
私はその様子を見て、思わず繋いだままだったジョナマリアさんの手をきゅっと握りかえしてしまう。
「両手は左右に広げて、膝は曲げた方が安定する」
と、穴に少し沈んだ場所で浮きながら続けるカルファルファ。
「慣れてると体を倒すだけで上下動出来るのだけど、最初はこうやって穴の壁を手で押して上げるといい」と回転を加えて下へ回りながら降りていくカルファルファ。
「じゃあ、先に行っているから。ごゆっくりー」と穴に反響しながらだんだんと小さくなる声。
「じゃあ、私たちも行きましょうか」と言うと、私の手をひいて穴の縁へ向かうジョナマリア。
「は、はいっ」私も気合いを入れなおす。
改めて覗きこむ縦穴は、全く底が見えない。ちらっと見えたカルファルファらしき人影もすぐに消えてしまう。
無意識にごくっと喉が鳴る。
ジョナマリアが繋いだ手を折り畳むようにして、肩を寄せてくる。
ジョナマリアを、肩越しに感じる。
「くっついていた方が安定するんですよ。さあ、せーのっで、行きますよ?」
言葉を失ったかのように、頷くことしか出来ない私。
目の前の穴やこれから落下していくことが遠くに感じる。
頭を占めているのは、ただ、ただ、肩越しに存在を主張してくるジョナマリアなことで。
それでもジョナマリアの声と動きに合わせ、一緒になって穴へと飛び込む。
閉じてしまっていた目。
感じるジョナマリア。
すぐに、内臓が内側から押し上げられるような気持ち悪い感覚が襲ってくる。
ゆっくり目を開けると、隣には間際にこちらを見ているジョナマリアの瞳。
「じゃあ、下降していきますね」
そして始まる、急降下。
──は、はやいはやいはやい! はやすぎる! これはジョナマリアさんキミマロに乗ってもけろっとしているわけだ。
高速で回転する目の前の縦穴の壁。
相対物があることでより一層速く感じる体感速度。
私は悲鳴を上げないよう必死になりながら、ジョナマリアと共に縦穴を下降していった。
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